第30話 修学旅行 in奈良②

「私についてくれば、後悔はさせない。」


 二日目、男前なマドカのセリフに感動し、私達のグループは訳も分からずお寺をはしごした。マドカチョイスのお寺は、マイナーなところかと思っていたけど、ガイドブックにもしっかり載っていて、観光客も多いナイスなところばかり。


「マドカの計画、とっても素晴らしいよ!」


「でしょ?奈良は私の庭も同然よ。」


 かなり広い庭ね。仏像って、古くてちょっと怖いイメージがあったけど、近年、作られた当時の色彩を再現するレプリカとか絵が作成されていて、色の綺麗さに感動した。色を自由に使うことができなかった、当時の庶民の人はびっくりしただろうな。


 夕方近くに、やっとマドカのスケジュールを消化して許可が出たので、グループで土産物屋を回る。シオリは小川君と出かけて行った。うちの分と、チカちゃんにも何か買おう。

 あっ、陶器屋さんだ。私、こういうお店、大好き。カップとかお茶碗とか。奈良土産とは関係ないけど、あきらのご両親に何か買っていこうかな。いつもよくしてもらってるし。

 なんか、使いやすそうで、素敵な絵柄の夫婦茶碗があって、手に取って見ていると、マドカとけんちゃんが目を見張ってそそくさと去っていった。

 違うんだってば―!

 でも、その夫婦茶碗は買った。あきらとお揃いのマグカップも。


 その夜、マドカとシオリがにやにやしながら寄ってきた。


「友香、あの夫婦茶碗について、話を聞かせてもらおうか。」


「彼との夫婦茶碗を買ったんだって?やるねえ。」


「あれは、(あきらの)両親へのお土産だって!」


「本当かなあ。」


 大ピンチだったが、ヒロミがタロット占いを始めたらしく、誘われてみんなでヒロミたちの部屋に押し掛けたので難を逃れることができた。



 最終日は、ホテル近くの二月堂や三月堂に行って、仏像の前で動かなくなったマドカを引きはがし、鹿にせんべいをあげた。鹿せんべいは、見たところごく普通のせんべいのようだが、一口食べてみると、干し草というか、飼料というか、そういったものがせんべいの形になっているような味で、人間が食べても全くおいしくないと思う。人間は食べないでください、という注意書きはなかったみたいだけど、食べる人はいないだろうな。私は一口食べたけど。

 けんちゃんが油断して持ち歩いていた、お土産の入った紙袋まで鹿にかじられていて、みんなで大笑いした。


 修学旅行は、迷子になったり、すれ違ったり、不良に絡まれたり、不測のロマンチックな問題が発生することも、甲斐君が便秘になることもなく(別のクラスだけど、けんちゃんが心配してた)、無事に過ぎた。

 いい思い出がたくさんできた。ただ、これから一生、奈良に来るたびにマドカを思い出すだろうけど。



奈良のお土産を金城家に渡しに行った時のこと。


「まあ友香ちゃん、夫婦茶碗だなんて、とうとう啓と結婚する気になってくれたのね。」


「これはおじさまとおばさまへのお土産で、啓くんにはマグカップを……。」


「私達、今使ってるのがあるから、これは将来のために取っておくわね。」


「せっかく友香さんが買ってきてくれたんだから、使おうよ。」


あきらはソファーでクスクス笑っていた。


あきらからライン。

『友香、僕と結婚する気になってくれたの?』

『する気にはもうずいぶん前からなってますけど。あきらはどうなの?』

『……今度会った時に言うから、今は勘弁して。』

『ほら、ラインって伝えにくいでしょ。勘弁してあげるけど、その代わりこれからは用がある時だけにするからね。あっ、おやすみ。』


ラインより直接言葉で言いたかったんだけど。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る