第29話 修学旅行 in奈良①

 どこへ行くかなんて、大したことじゃない。友達と旅行っていうのに意義がある。しかし、だからといって、二泊三日の修学旅行の行先が奈良onlyなんて……。九州や沖縄じゃないのかい。京都すら含まれていない。

 奈良に魅力がないとは思わない。マドカなんて、『えっ、全日自由行動?しめたっ!どこに行くのか、計画は私に任せて!』と、橘寺だ、岡寺だ、岩船寺だ、浄瑠璃寺だと私やシオリが聞いたことのないお寺の名前を叫んでいる。東大寺や興福寺は、何回も行ったことがあるし、これからもいつでも行けるからと却下された。阿修羅像、ちょっとだけ見たかったな。


「うーん、でも、二月堂や三月堂は行っときたいなー。もう国宝がザックザクだよ。牡丹の時期じゃないけど、長谷寺の仏像は捨てがたいし、明日香をサイクリングっていう手もあるわ。日光、月光菩薩のあそこ、なんて寺だったかしら、私としたことが……。」


「マドカ、高校生なのに寺や仏像、そんなに好きなんだね。何がそんなにいいのかなあ。」


「昔の人が作って、ずーっと祈られてきたこのパワーが素晴らしいよ!」


 よくわからないけど、もう誰もマドカに逆らえない。同じグループのシオリと私とけんちゃんと飯田君と長岡君は大人しく従うことにした。



 修学旅行一日目、拠点のホテルを出た私たちは明日香をサイクリングしながらまわることにした。地図を見ることなく目的地まで自転車で激走するマドカが怖い。学校に遅刻寸前の男子高生と同じくらいの感じ。

 有名な石舞台や、仏像の前からマドカを引きはがすのに苦労した岡寺をまわって、近くの食堂で、にゅうめんっていうあったかいそうめんを食べた。めちゃくちゃ美味しいってものでもないけど、あったかいそうめんっていうのが、珍しくてほっとする感じがして気に入った。家でもやってみよう。

 甘樫丘あまかしのおかは、緩そうに思えるけど登るのが結構しんどい丘で、頂上から畝傍山、香具山、耳成山が見える。この丘のあたりに蘇我氏の邸宅があったらしく、飛鳥地方が見渡せる。


友香郎女ゆかのいらつめ、私には、蘇我氏の一族であるあなたをめとることは許されないのです。」


「金城皇子!あなたと一緒になれなければ、生きている意味がありません。」


「私もそうです。しかし……。」


「もう何もおっしゃらないで、今は私を離さないで。」


「どうしてあなたは蘇我氏の一族なのですか……。」


 日本版、ロミオとジュリエットやん。うふふ……。


「友香、戻ってきた?」


「あっゴメン、シオリ、ちょっと蘇我氏の一族になってた。マドカは?」


「まだあっちで、紫野まで行ってるみたい。ニンマリしながら和歌を口ずさんでるよ。野守が見ずや君が袖振るって。」


「人妻ゆえに……。ってやつだね。シオリは何してたの?」


「持統天皇になって、衣干したり天の香具山してた。香具山見えるし。」



「ねえけんちゃん、女子が何言ってるかわかる?」


「聞いたことある単語はあるけど、意味は全く分からないよ。」


「僕達いつまでこの丘の上にいればいいの?風が出てきて寒いんだけど。」



 夕ご飯はホテルで揃って食べることになっている。


「シオリ、何か元気ないね。疲れた?マドカのスケジュール、ハードだったもんね。」


「ううん、ちょっと悩み事。ねぇ、夜聞いてもらってもいい?」


「恋バナ?私の意見はあんまり参考にならないよ。」


「うん、聞いてくれるだけでいいから。」


 その恋バナはとんでもないものだった。

 シオリの彼は、陸上部でプリンス小川とあだ名される、大変爽やかな人だ。日焼けした顔は精悍で、だけど優しくて結構女子に人気がある。シオリがダメ元で告ってみたらOKしてもらえて驚いたらしい。


「なんか、たまーにいい感じのラインがくることもあるけど、たいてい素っ気ないんだよね。私のことホントに好きなのかなあ。」


「……それ、多分向こうは何も考えてないだけだよ。会ってる時の態度はいい感じなんでしょ?」


「そうだけど、友香んとこはどんなライン?ちょっと見せてもらってもいい?」


「ぜっっっったいにイヤ。」


「ほら、素っ気なくないんでしょ。」


「シオリは同じ学校に相手がいるんだから、そんなにラインしなくてもいいでしょ?」


「でも、おやすみとかして欲しい。よく忘れちゃうのよね、小川君。」


「えっ、おやすみってだけでラインするの?私一回もしたことないよ。」


「……私が間違ってたのかな。」


「そうとはいえないけど、私達のライン、二往復位で終わるよ。」


「それだけ?!ありえない!」


「そうかなあ。」


「とりあえず、小川君が悪くないことはわかったわ。ありがとうね。」



 寝る前にあきらにラインしとくか。

『おやすみ。』

『どうしたの?』

『反省したの。』

『?どういうこと?』


 ほら、これ必要?
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る