第25話 馬に乗れるだけじゃ王子じゃないの
僕の名前は
この乗馬クラブの文字通り王子様だ。
念入りにブラッシングして手入れの行き届いたつややかな毛並みの愛馬、アドルファス号で馬場を巡れば、女子の視線と
のはずなんだけど。
今日、乗馬体験に来た男女八人組は僕のことは眼中にもない。
全員この前流鏑馬で活躍した、アラフィフの安井さんを取り囲んでいる。
「どれくらい練習したら流鏑馬ってできるようになるんですか?」
「私たち、弓はもうできるんです。」
「ほう、弓道部かね。流鏑馬は落馬するのが怖いから、体験は出来ないんだよ。乗馬が相当上級者にならないとね。」
「一緒に写真撮ってもらっていいですか?」
安井さんは満面の笑みだ。
八人が乗馬体験するので僕とアドルファス号も駆り出される。
僕の担当はショートヘアの女の子。
「大路といいます。よろしくお願いします。」
「一色です。よろしくお願いします。」
「一色さん、じゃあこのビールケースを踏み台にして、足を
「はい……。わあ、思ったより高い!わっ体に馬の動きが伝わってくる!」
「背すじはしっかりのばして、そう、姿勢がいいですね。」
「そうですか?ありがとうございます。」
「慣れたら、ポンポンってお腹を優しく蹴ると、並足(歩き)からダク足(小走り)になりますよ。」
「ちょっとだけ走ってる!馬って賢いですね。」
体験が終わると一色さんがケータイをもってこっちに走ってくる。
走らなくても僕は逃げやしないよ。
「あの、一緒に写真撮ってもいいですか?」
「もちろんだよ。」
「お願いします。」
彼女は僕にケータイを渡してくる。?
「アドルファス号にどれくらい近寄っても大丈夫ですか?みんな、アドルファス号と一緒に撮ろうよ!」
「……。」
「今日はいろいろとありがとうございました。あの、大路さんは流鏑馬はしないんですか?武将好きの女子が増えたから、きっともてもてですよ。」
「実は今練習中なんだ。」
明日から安井さんに習うとしよう。後継者欲しがってたし。
「来年楽しみにしています。私、ファン第一号になりますね。」
しかし、高校生たちが帰り際に話しているのを聞いた僕は、谷底へ突き落とされた。
「友香の担当の人って、だいぶぽっちゃりしたおじさんだったね。」
「うん、でもとっても親切にしてもらったよ。おじさんって言っても、40歳にはなってなさそうだし、私も中学まではぽっちゃりしてたから、他人にそんなに厳しいこと言えないよ。」
「何言ってるの。あの人アンタと違って、痩せたらイケメンになる顔の造作の人だよ。」
「そうそう、シュッとしてアラサーならドストライクだわ、私。もったいないよね。」
来年までに絶対痩せてやる!僕はまだ29歳だよ!
あきらからライン
『乗馬は楽しかった?』
『だいぶ乗れるようになったよ。あきらがピンチの時、馬で駆けつけてあげるね。』
また何か楽しそうな妄想してるな。馬、そのへんにいないよ。
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