第21話 断捨離道場
『しっかりしろ!どうしてこんなになるまで放っておいたんだ。もう少し早くに手を打っていれば、なんとかなったのに、誰か、ストレッチャー!』
大好きな医療ドラマが頭の中をぐるぐるする。ため息をついて机の周りの現実を見る。本当にストレッチャーで運びたいくらいにプリントやノートや本がある。先日クローゼットは整理整頓できたが、机周りも何とかしないと……。でも、どうしたらいいんだろう、これ。
プリント類は、自分でいるかいらないか判断するしかない。本やノートだって…。でも、誰か助けて――。あきらを呼ぼうかと一瞬思ったが、そのせいで別れることになったりでもしたら悔やんでも悔やみきれないし、恥ずかしすぎる。
おっ、一人当てがある。弓道部の後輩、チカちゃん。。彼女が入部してから部室の掃除をしてくれて、小汚かった部室がみるみるきれいになっていった。汚いのは許せないそうだ。
チカちゃんに頼んでみよう。
チカちゃんは整理収納に自信があるのか、快く承諾してくれた。
「チカちゃん、これが私の部屋よ。服はなんとか捨てたけど、机周りをよろしくお願いします。」
「では、友香先輩、プリント類を一か所にまとめて、判断しながらゴミ袋に入れてください。私は中学までの教科書や参考書をひもで縛ります。」
「本棚の中を全部出して、最近使ったものだけ戻してください。迷うものは、クローゼットの中にこのカラーボックスをいれますから、そこの中に。」
自分で考えることなく、チカちゃんの指示に従い、どんどん分別していく。一人だと泣きたくなるが、チカちゃんがいてくれて本当に有難い。
「机の引き出しは全部中をだして空にしてください。多すぎる文房具は、今回は私が少なくしてみます。」
「この辺のぬいぐるみで捨てられないものは、クローゼットの上段にディスプレイして普段は隠しておくとスッキリしますよ。」
チカちゃんの断捨離道場はとても厳しかった。テンションが高まってくると、何でも捨てさせようとしてくる。怖い。自分でもわかっているようで、「すいません、捨てるかどうかは必ず自分で判断してください。」と途中で何回も言っていた。でも、チカちゃんのおかげで机周りはスッキリした。達成感がすごい。
「机の上は、何も置かないようにしてください。このトレーに入れて、本棚の空いたここに置けばいいと思います。」
「ありがとう、チカちゃん。リビングでお茶でも飲んでいって。」
「あら、お友達にが来てたの?」
「お母さん、お帰りなさい。後輩のチカちゃんだよ。片付けが上手で私の部屋、とってもきれいになったのよ。」
「こんにちは、友香先輩にはいつもお世話になっています。」
「えっ、片付けが得意なの?うれしいわ。ちょっとアドバイスしてほしいことがあるの。台所に来てくれない?」
やれやれといった感じでチカちゃんが立ち上がる。
「食器なんだけどね、今もう少し減らせないか考えてるの。」
「こ、これは……。」
うちの食器棚は奥行きはあるが幅50センチの七段で、上の四段が食器を入れるスペースで、下三段はカレールーやパスタなどの食材置き場だ。
大皿、中皿、小皿、丼、お椀、ご飯茶碗、デザート皿、カレー皿、サラダボウル、グラタン皿、スープカップ、マグカップが各五つ。皿類は基本的に白の模様無し。
「これ以上、いったい何を減らそうと思っているんですか?」
「スープカップは捨てて、お椀でいいんじゃないかと。」
「難しい問題ですね……。料理の盛り付けを気にしないならいけるかもしれませんが。」
「やっぱり?うれしい、わかってくれる人がいて。友香ったらグラタン皿は絶対いるっていうのよ。大抵は自分で決めるけど、アドバイスが欲しくなる時があるのよ。」
「わかります!」
「鍋やフライパンの数もね、……。」
二人は大いに盛り上がり、チカちゃんは帰りにお母さんを『師匠』と呼ぶようになっていた。
「友香先輩、今日は誘っていただいて本当にありがとうございました。整理収納で悩むことがあったら、またおうちに伺ってもよろしいですか。」
「いつでも来て。」
大変疲れたので部屋の写真をあきらに送るだけにした。
『すごいじゃないか!これ、本当に友香が一人でやったの?』
『なんでわかるの?後輩に手伝ってもらったわよ。』
『言ってくれたら僕だって手伝うのに。』
『破局の原因になったらいやだから。』
相当汚かったんだな。
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