第17話 小話 姑息なピンチの切り抜け方① 友香の兄 和斗

「どちら様ですか。」


「お宅こそどちら様かしら。」


 下宿のドアのピンポンが連続で鳴らされる。

 ぐっすり眠っていたのを、やっとの思いで目をこじ開け、何とか玄関ドアまでたどり着いてドアを開けた。

 宅配ではない。

 見知らぬアラフィフのおばさんが、小刻みに震えながら激怒している。


「俺は一色和斗ですけど…。」


「ここは、南村百合の部屋じゃないかしら。」


 えっと、昨日、南村さんの下宿にみんなで鍋パーテイに呼ばれて、飲めないって断ってるのにビールを注がれて飲み過ぎて……。

 ここまで考えたところで南村さんがダッシュで現れる。


「お母さん、あの、これは…。」


「百合、どういう事かしら、これは。」


「私、彼がいるって言ったじゃない!あの人は断ってよ!帰って!」


 あっ俺、はめられましたな。よくわからんけど。

 もうここは流された方が早く済むだろう。

 俺は深々と頭を下げて挨拶した。


「初めまして。一色です。百合さんとお付き合いさせていただいてます。」



 南村さんがお母さんを追い払ってから、朝ご飯を用意してくれた。

 申し訳なさそうに上目遣いにこちらを見る。


「一体どういうこと?いやな婚約者でもいるの。」


「ごめんなさい。あの、婚約者じゃなくて、ちょっと会ってみろってくらいのひとがいるの。」


「会ってみたの。」


「だって、私、大学出たら働きたいことがあるんだもの。」


「なるほど、そういうことか。」


 大まかな理由を味噌汁を飲みながら聞く。うまい。


「一色君、彼女いないから迷惑が最小限だし、頼みやすそうだったから。私の計画では部屋に上がったお母さんに、一色君が寝てるとこ見せるつもりだったんだけど、寝ぼけて玄関に行くから好都合だと思って……。本当にごめんなさい。」


 せめて頼んでほしかったよ。でも、頼まれたら引き受けてなかっただろうな。あっ、ベーコンエッグもうまい。


「君のお母さん、これで諦めてくれるかな。」


「わからないけど…。一色君、Tシャツとトランクスだったから、結構効いたと思うよ。」


「……まぁ、君の力になれたのなら良かったよ。朝ご飯のベーコンエッグ、僕好みの焼き方だったし、味噌汁もうまかったからこれでチャラにしてあげる。」


 やれやれ、なんとかなってよかった…と思う?

 ハイ、これだけでは済みませんでした。

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