第15話 真夏の夜の夢

あきらくん、どう?きつくない?動ける?」


「うっ…ん、ちょっと待って、一回深呼吸するから。うん、大丈夫。」


「行くわよ、んっ、よいしょっ…と、さあ、できたわよ。」


「友香ちゃんは着付けもできるのね。助かったわ。」


 花火大会に、僕が浴衣を着ていけなかったので、商店街の納涼祭りでリベンジすべく、浴衣を装着したところだ。友香は既に自宅で装着済み。


「いえ、おばさま、弓道で週5で帯を締めているんで、扱いなれているだけです。」

(あきらの着付けを手伝う事になって、優斗でめっちゃ練習してきましたよ。友香、心の声)


 弓道の袴の下には、和服で見る帯よりも幅の狭い帯が締められているそうだ。


「なかなかいいわね。二人とも良く似合ってるわ。啓、友香ちゃんを家まで送るのよ。」


「わかってるよ。行ってきます。」



 夏祭りの夜は、たくさんの人が歩いていて、うきうきする。


「あきらの白地に縦線のその浴衣姿、とってもかっこいいよ。身長高いし、映えるね。今、何センチあるの?」


「181㎝くらい。」


「わあ、高いね。私、165㎝から、全然伸びないのに。」


「友香、浴衣着付けられるってことは、着崩れても心配ないってことだよね。」


「何、あきら、私に襲われたいの? 私、襲った後で放置して帰るよ。」


「それはやだ。おとなしくしてて。」


 たわいのないおしゃべりをして歩いていくと、ベビーカーを押した奥さんと、男の子を肩車した旦那さんが…。見たことある人たちだな。


「水川夫妻、めちゃくちゃハマってますね。」


「友香、何だよその呼び方!ヒロ君はちょっとした知り合いなんだよ。」


「向こうで両親が屋台に並んでるから、子供たちを預かってきただけよ。」


 ……いいのか、この二人。

 ヒロ君が中二になって本当の親を探す旅に出るとかいいだしたらどうするんだ。

 しかし、夜店って値段高いし、買おうとすると長蛇の列なんだよな。


「お祭りだからしょうがないけど、高いし、並ぶの面倒だね、あきら。」


 友香も同じこと思ってた!よし!


「とっても便利なお店があるから、そこにしない?」


 目的のお店は商店街から少し離れた、便利なお店――コンビニ。


「えっ、アメリカンドックがこの値段!あっ焼き鳥も安い!私、タレにしよう。あきらは塩にしなよ。半分交換して。」


 僕達はコンビニの外のベンチに座って食べることにした。


「よく知ってるね、コンビニを使うなんて技。」


「母さん、昼間ここでパートしてるから。」


「えっ、マスタード出ないケチャップだけの小袋ってあるの?」


「あるよ。僕はいつもコレ。」


「あっ、あきら、口に焼き鳥のタレが付いてるよ。」


 友香がハンカチで拭いてくれる。

 そこは指で拭いてペロッとしてくれたらいいのに。

 何でこんなに人が通るんだよう!コンビニの前だからか!



 友香を家まで送って別れ際、さよならの意味で見つめる。

 ハグぐらい、いけそうだったけど大人しく別れた。


 一人で帰る暗い道の途中で立ち止まる。背後に人の気配。


「……いつまで隠れているつもりだ。つけているのはわかってるぞ、…荒木!」


「気が付いていたのか、金城。」


「一体何のつもりだ。」


 僕は卓球部の部長で友人の荒木の方へ向き直る。

 荒木のやつ、もしかして、いつのまにか友香のマニアックな魅力に気づいたのか。いいところに気づいたと褒めてやりたいが、もしそうなら谷底に沈めてコンクリートで埋めてやる。

 僕の鋭い視線に、やつは少しひるんだようだったが、覚悟を決めたのか話し出す。


「実は、ずっと相談したかったんだが、さっき偶然お前たちを見かけて……あの、金城の彼女ってS校だろ。S校卓球部の田中シオリさんって、彼氏いるのか、聞いてもらえないか。」


 じ・ぶ・ん・で・き・け・や・ホ・ン・マ・ニ――!


 まぁ、人のことは言えないけど。

 それに荒木は部長としてとてもよくやってくれている。

 よし、こういうことはさっさと済ませてしまおう。めんどくさいし。


「ちょっと待て、シオリさんだな。…確か知り合いって言ってた気がする。友香に電話して聞くよ。あっ、友香? あきらだけど。あのさ、ちょっと聞きたいことがあって。卓球部の田中シオリさんって彼氏いるか知ってる?うん、知りたいってやつがいて、ほら、部長の荒木だよ。えっ、あっそう。ありがと。うん、おやすみ。」


 荒木が期待した目で僕を見つめてくる。

 男同士見つめ合っても不毛だ。僕は目を逸らす。


「残念だな、お前の恋はゲームオーバーだ。シオリさんには陸上部の彼氏がいるって。……コンビニの焼き鳥で良かったら、おごるけど?」


「いらない……。」


 真夏の夜は暑い。荒木の夢は砕け散った。

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