第14話   G

「お帰りなさいりなさい。早かったのね。」


 帰ってきて鍵を開けて自宅に入ったら、友香がリビングのソファーから声を掛けてきた。


「……なんでうちのリビングにいるの?どうやって入ったの?」


 彼女は麦茶を飲みながら、にっこり微笑んで、見覚えのあるキーホルダーのついた我が家の鍵を見せる。


「合宿のお土産を届けに来たら、途中であきらのご両親に会って、買い物すぐ済むから中で麦茶でも飲んで待っててっておっしゃるから。あきらも麦茶飲むでしょう?」


 ついに鍵まで渡されて、留守宅に上がれるようになったのか。

 そして当たり前のように冷蔵庫まで開けるようになったのか。やるな、おぬし。


「驚かせようと思ったの。どう、おどろい…。」


 突然、友香はダッシュして僕に抱きついてきた。えっ。どうして…。

 もう驚いたよ。僕、部活で汗かいてるのに。

 ああ、オレンジの香りがする。心臓がものすごくドキドキする。

 やわらかくて温かい、彼女の体。密着するのが心地いい。

 どれくらい、そうしていただろう。長く思えたけど、案外ほんのちょっとのことかもしれない。

 僕も彼女を抱きしめる。

 彼女はもっとぎゅっと僕を抱きしめると、息を一つ吐いた。


「ねぇ、新聞紙、ある?」


「えっ…新聞…テーブルの下の棚にあるけど、どうして?」


「ゴキブリがいたの!あきらはなんとか出来る人?」


「!!!」


 大変情けないことに、僕はリビングから逃げ出した。G(ゴキブリって言葉も嫌)とセミは大の苦手なんだ。家族で対応すると、部屋中殺虫剤だらけになるから、ホイホイを置いて、誰が始末するかいつも揉めるんだ。


優斗おとうとがいれば…。怖いけど、私がるから、逃げられないように見ててね。」


 見るのも嫌なんだけどー!

 友香は新聞紙を丸めるとGに狙いを定めて振りかぶり、スパコーンと打ち下ろした。


「やったー!ったよー。あきら、死体コレどうする?」


「お願い、うち、全員大の苦手なんだ。トイレットペーパーたくさん使っていいから、トイレに流して。」


 Gを始末し、穏やかな日常が戻る。

 G一匹いないだけで、こんなにも心が穏やかになるなんて。

 この安堵感を何に例えたらいいのだろう。

 


「ただいまー。友香ちゃん、遅くなってごめんなさいね。」


「啓、帰ってたのか。何だ、お邪魔だったか?」


「違うよ。Gが出て、友香がやっつけてくれてたんだ。」


「なんだと!Gが!友香さんは始末できる人なのか?」


「あなた、よかったわね。これで我が家の平和は約束されたわ。」



 友香からのライン

『ねぇ、あきら、気づいてる?もしあなたが浮気して私を裏切ったら、金城家を追い出されるのはあなたよ♡』

『ホント、その通りだね。Gを始末した友香って頼もしかったよ、ありがとう。』

『頼もしがられてもなー。次は自分でやっつけてよ。』

『絶対無理。』

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