第11話 姑息が止まらない 友香大暴走

「一色さんが金城君の彼女なんですってね。ぱっとしないわねぇ。」


 ……ここ、県立高校前だよね。金持ち私立校じゃないよね。

 いや、お金持ちの人って、いろんなつながりがあるし、そもそも心にゆとりがあるから、こんな無礼な人いないか。

 あー、彼女は同じ中学にいたな…確か片平さん。


 今日は久しぶりにスイーツを食べに行く約束をして、K高校の門のところで啓くんを待っていた。

 無視していたらさらに言いつのってくる。


「私の方が、彼にふさわしいわよ。」


 片平さんは気の強そうな比較的美人だ。私と比較すればね。

 だが、私の姑息さに勝てるのかしら。

 ふさわしいかどうか、やってやろうじゃないの。

 私に喧嘩売ったことを後悔させてやる。


「片平さん、こんな所で立ち話もないでしょ。久しぶりだし、お茶の飲めるところで話さない?」


 私は啓くんに、女の戦いの為、スイーツはキャンセル、30分後に帰宅するように一方的に電話し、もう一か所、在宅の確認を取った。

 主導権を取れるところに誘導しよう。



「片平さん、お茶、ここでいいかしら。」


「えっ、普通の家でしょ?ここ、表札が金城なんだけど……」


 片平さんを無視して玄関チャイムを鳴らす。


「まあ、友香ちゃん、待ってたのよ。」


、急にすみません、友達とお茶しに行く途中なんですけど、タッパーウェア返しに、寄らせていただきました。」


「ちょっと、お友達も一緒に上がっていきなさいよ。味見して欲しい新メニューがあるの。」


「じゃあ、ちょっとだけ。」


「これ、友香ちゃんにって買ったスリッパなの。ああ、お友達にはお客様用のスリッパを出すから。」


、わざわざありがとうございます。うれしいです。」


 私は片平さんに逃げられないように彼女の腕をつかんで金城家に上がり込んだ。

 よし、ホームグラウンドに引っ張り込んだらこっちのもの。クックックッ。


 「片平さん、ソファーに座ってて。あっおかあさま、私がやりますから。」


 私は最強守備力を誇るマイエプロンを装備し、自然な感じで、麦茶を出す。

 片平さんは固まっている。そうだろう。

 もはや私は彼女の領域ではなく、嫁の領域に足を突っ込んでいる。


「友香ちゃん、新しいレシピで作ったクリーム味のロールキャベツなの。いつものとどっちがいいかしら。」


「おかあさまの料理はいつも体に染み入る、というか、元気が出ます。はい、片平さんも食べてみて。とっても美味しいのよ。」


 私は箸立てからマイ箸を取り出すところを見せつけ、彼女には割り箸を添えてロールキャベツのお皿を渡してあげた。


「はぁぁ、おいしい…。うーん、私はよりこっちの方が好きですけど、はいつものケチャップ味の方がいいって言うと思います。」


「そうかしらねえ。まあ、あの子はいいわ。友香ちゃんが気に入ったのなら。あら、お友達は一口しか食べてないけど、お口に合わなかったかしら。」


 私は美味しいロールキャベツをお代わりして、片平さんを見る。

 フフフ。この状況でロールキャベツをのどにつかえさせずに食べられる女子高校生はいまい。


 そこへが帰宅する。ナイスタイミング。


「なんだよ、友香、うちにいるのか?約束キャンセルってどういうことだよ。楽しみに…。」


 知的メガネの不機嫌な顔が、ぎょっとしたように固まる。

 えっ?なんで友香と片平さんが…女の戦いって言ってたな…頭の中で猛スピードで考えているようだ。

 彼は戸惑いながらも理解しようとしてくれている。

 さすが姑息なインテリメガネだ。


「ねぇ、私この前、あきらの部屋に本を忘れていったんだけど。」


「ああ、あれ、机の上にあるからとっていけばいいのに。」


「うん、でも一緒に来てよ。」


 私達はあきらの部屋に行く。


「どういうこと?」


「片平さんに、あきらの彼女の座をかけた女の戦いを挑まれたの。谷底に突き落としてコンクリートで埋めてやるから協力して。ロールキャベツはケチャップ味がいいっていって。」


「わかった。」


「下へ行くとき、私の腰に手をまわして。」


「いいの?」


「もちろん!」


 階段を下りながら、私たちはにこやかに微笑み、あきらは私の腰にがっちりと手をまわして喜んでいる。

 あきらがちらっと片平さんを見て、私に顔を寄せて小声でささやく。『勝てそう?』

 私はあきらを見つめる。『もうほとんど勝ってる。腰、そろそろ離して。』


「うーん、こっちも悪くないけど、いつものケチャップ味の方がいいなあ。」


 もう、片平さんは谷底で完全に戦意喪失している。

 だが、私は攻撃の手を緩めない。仕上げにコンクリートで埋めてやる。

 おばさまもナイスなアシストをしてくれる。


「友香ちゃん、次はいつ夕飯を食べに来てくれるの?お父さんが会いたがってるわよ。一緒にクイズ番組見たいって。」


「今週の日曜に伺ってもいいですか?」


 一言も発しない片平さんを引きずって外へ出た後、私は今までで一番ひどい姑息技をハッタリも効かせて繰り出した。後で後悔するくらいに。


「あなたの親がどこで働いてるか知らないけど、私の親の会社が超御得意様だったらどうするつもりかしら。私が頼めば取引先の一つくらい簡単に変えられるのよ。人の縁って複雑で、どこに繋がってるかわからないんだから他人に嫌な事言うのはリスク覚悟でね。」


 その夜私は布団の中で、将来片平さんが仕事の同僚か、得意先の人にならないように激しく祈った。

 もちろん、私の親は普通のサラリーマンです。


 後日あきらからライン。

『学校で最近、僕に彼女じゃなくて妻がいるって噂があるんだ。』

『それで何か困ってるの?』

『…何も困ってないな。』

『ならいいじゃない。』

『これからも、あきらって呼んでくれるかな♡』

『呼ばせていただきますとも♡』

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