第10話  ハラハラドキドキしてみた

「ねぇシオリ、これって大ピンチなんじゃないの?」


「大ピンチだね。」


「もうだめかなぁ。」


「まだわかんないって、友香。」


「でも二セットも取られちゃってるし。」


「野球は九回裏ツーアウトからっていうじゃん。それと同じよ。」


 今日は卓球の試合の応援に来ている。

 S校卓球部の友人シオリを応援するというていでこっそり見に来たんだけど、来たとたん啓くんは大ピンチに陥っていた。

 卓球は一セット11点先に取った方がセットを取る。

 先に三セット取ると、そのゲームで勝ちになる。


「ほら、一セット取り返したよ。粘るねえ。」


「卓球する人って粘る人多いの?」


「多いよ。こっから逆転するのも別に珍しいことじゃないから。」


 ふーん、そうなのか。私なら諦めちゃうのに。

 全てがゆっくりした弓道に比べて卓球はあまりにもせわしない。

 卓球台のふちに当たってインなのか、それともアウトなのか、私には見極めきれないこともあった。

 弓道なら的に刺さってるか刺さってないかで一目瞭然なのに。

 一セット見るだけで相当ハラハラドキドキする。韓流ドラマ並みだ。

 卓球って見ているだけで眼も頭もとっても疲れる。

 結局啓くんの粘り勝ちで、逆転勝利できた。

 ものすごくホッとする。ちょっとラインしとくか。

『今のゲーム、すごくドキドキしたよ。おめでとう♡』


 返事はしばらくしてから。

『ちょっと調子でなくて。来てたんだ。S校のところにいるの?』

『うん、友達のシオリと一緒。』


 チームメートのところにいる啓くんは遠くからこっちをちらっと見る。


「友香の彼って金城君なんだ。彼、優しいから人気あるよね。特に男子中学生から。」


「シオリが知ってるくらい噂になってんの?」

 優斗、ナイスかも。女子をけん制できているわ。


「どっちが告白したの?」


「うーんほぼ同時だけど、三十秒くらい啓君が早かったかな。」


「まじ?なにそれ。」


「私と付き合ってることはなるべく黙っといて。彼女が私の時点で趣味を疑われるだろうから、あんまり大っぴらにはしたくないんだ。隠してるつもりもないけど。あっ、言っとくけど彼氏だから。」


「大丈夫、私、陸上部の小川君と付き合ってるから。」


「えっ!プリンス小川と!マジで!いつ、どうやって!」


 小川君とは一年生の時に同じクラスだったけど、優しくて女子に人気あったな。


「友香、次の試合、始まるから見やすいところに移った方がいいよ。私も出番だから行くわ。」


 もう気づかれているので、さっきより近くで試合を観戦した。

 私の個人的な見解ではあるが、卓球ってサーブを打つフォームに入ったところからトスを上げて打つところまでが、一番格好いいのではないだろうか。

 でも一人で戦う後姿もかっこいいな。(一セットずつコートチェンジをするから、前も後姿も見える。)弓道は対校戦とかで戦う相手はいるけど、結局自分との戦いだし。まあ卓球も自分との闘いか。

 そんなことを考えているうちに啓くんは勝利していた。

 こちらを見ることなく後姿のまま、ちょっとだけ片手を上げてチームメートの方に歩いていく。カッコイイ!


 結局ベスト8くらいで啓くんは負けちゃったけど、卓球やってるかっこいい姿を見ることができて大満足だった。

 さて帰るか。

『お疲れさまでした。じゃあね。』

『一緒に帰ろうよ。』

『いいの?』

『閉会式終わったらすぐ行くから、玄関ホールで待ってて。』




「明日の練習は休み、じゃあ解散な。たこ焼き食べてくやつは――金城、行くだろ?」


「いや、彼女と帰るからお先。」


「えっ金城先輩って彼女いるんすか?いつもにこにこ男子中学生をはべらせていたから……。」


「はぁ?侍らせてるのは馬だよ。」


「?」


「将を射んとする者はまず馬を射よっていうだろ。」


「もしかして、お姉さん狙いですか。」


「そう。でも中学生の相手も真面目にやってるから。非難されることは何もして

いないよ。」


「かっこいいけどちょっと姑息ですね。」


「姑息の何が悪いのかなあ。じゃあ、友香を待たせてるから。」


 彼女と付き合っていくのに姑息は欠かせないだろ。

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