第9話 日曜日の午後は

「今頃友香、何してるかな。」


 最近、オレンジの匂いがすると、彼女のことを思い出すようになってしまった。パブロフの犬ってこういう事か。

 昼ごはんの後、オレンジをくんくんしながら考える。

 僕も何か匂わせるといいのか……。ラベンダーとかどうだろう。

 そして、彼女の家のトイレの芳香剤をラベンダーにしてもらえばトイレに入るたびに僕のことを…。いや、それだと、僕に会うたび実家のトイレを思い出すとか。

 そもそも、ラベンダーの香りのする男子高校生ってありなのか。

 クラスにやたら柔軟剤臭いやつがいて、女子が『ちょっと引くわー。』って言ってたしな。やめとこう。


 日曜日の午後、僕はリビングでくつろいでいる。


「父さん、何してるの?」

「漢字検定の勉強だよ。」

「今更受けるの?」

「友香さんとクイズを見るとき、答えられるようにだ。最近、友香さんの褒めが少なくなってきた気がしないか?」


 マジか…。あっ、日本史の本まで買ってる。

 最近、友香が油断して自分でさっさと答えるようになってきたからだ。

 国語と日本史は得意だって言ってたから、父さんといい勝負なんだろう。

 この前、母さんに『まあ、友香さん、よく知ってるのね。』と言われてから張り切りだしたしな。


 母さんは、チェックするテレビの料理番組が増えて、レシピをため込んでいる。ネットは情報が多すぎてついていけないらしい。

 この間ついに本格的な土鍋を買っていた。今までは三人家族だったから、普通の鍋でやってたのに。友香の褒めたたえが相当うれしいらしいな。

 さらに、昨日、友香専用のスリッパまで購入していた。もう、ある意味コワい。そのうち、布団まで買いだすんじゃないか。別にいいけど。


 あっ、友香からラインだ。

『ねぇ、ちょっとだけ会えないかな。啓くんの都合にあわせるから。』


 ニヤリとして僕はケータイから目を上げる。


「ちょっと友香と会ってくる。夕飯には戻るから。」


「夕飯に同伴してきなさいよ。」


「もう今から来てもらいなさい。」


 友香に返事をする。

『迎えに行くから、途中のコンビニで待ち合わせをしよう。うちに来て夕飯食べてきなって。』

『了解しました♡』

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