第8話 この際はっきり
「数学はね、授業でやったその日に、家でもう一回別のノートに清書しながらやり直すといいよ。すぐにじゃないけど、絶対効果あるから。あっ、ノートはB5サイズじゃなくて、A4を使うと一ページに数式がきれいに収まるからお勧めだよ。」
期末テストも近い日曜日、僕は一色家のダイニングテーブルで友香と勉強会をしている。汚部屋にはまだ入れてもらえないが、必ず掃除するからって言っている。気長に待とう。友香は、友達と勉強会をして勉強できたためしがないとしぶっていたが、テスト前に遊びに行くわけにもいかない。
しぶっていた割に、友香は数学がかなり苦手なようで、ちょっと応用問題になると、お手上げ状態になっている。問題を作った人が大喜びするくらい、ひっかか
る。
「なんか静かだけど、ご両親は?」
「二人でスーパー銭湯に行ってる。優斗は友達と卓球。」
それって、家に二人きりってやつか。いやいや、そううまくいくもんか。
「でも、
ほらね。お兄さん、いるじゃん。えっ、お兄さん!
友香はシャーペンを置いて僕の方を見た。
「この際はっきりしておくけど、私、高校のうちは、啓くんと手をつなぐか、最大限譲歩してハグまでにしておきたいの。ラブラブするのは大学でもいいでしょ。私、啓くんやご両親に賢い娘さんだねって思われたい。顔やスタイルは中…の下だし、良家のお嬢様でもないから、せめて大学は頑張れるだけいいとこ狙いたいの。」
「わかったよ。でも、ハグや手つなぎはいいんだね。」
「それは時と場合による。」
「難しいなあ、僕のお姫様は。」
「行けそうって思ったら頑張るから。」
「僕からはダメなの?」
「手を出さないって言ったじゃない!」
そこへただいまの声がする。ご両親が帰ってきたみたいだ。
「ただいまー。あれ、お客さん?」
「おかえりー。和兄もスーパー銭湯に行ってたの?ああ、私の彼の啓くん。」
お兄さん、家にいなかったじゃないか…。
「こんにちは。兄の
「和兄、全然教えてくれないくせに!啓くんの説明、すっごくわかったもん。あっ、でも和兄、啓くんの困ってる数学のとこ、教えてあげてよ。」
お兄さんはどれどれと、僕のノートを見てくれる。
「ここんとこがわからないんだろう?ここは、これを使って…。」
「あっなるほど。」
「ここの部分でつっかえてるんだろう?」
どこで困っているのか、すぐにわかってくれて、的確なアドバイスをしてくれた。とても助かった。本当に友香のお兄さんなのか。のほほんとした人の好さそうな顔はそっくりだけど。
「優斗も卓球でお世話になってるから、わかんないとこ全部お願いね。それにしても和兄、私の時と全然違うじゃん。」
「友香の場合は、どうしてそんなところがわからないか、俺がわからないんだ。」
「啓くん、私、ひどいこと言われてない?」
「ひどいこと言われてるのはわかるんだね。」
お呼ばれした僕の夕ご飯の席は、いつもの、ご両親に挟まれた席で、お兄さんは背もたれのない丸イスで末席部分に座らされていた。大変申し訳ない。
「和斗は、メールもラインもそっけなさすぎるわ!『うん』、とか、『はい』、とか二文字で!返事が要らないと判断したら音沙汰無しで!」
友香のお母さんの気持ち、すっごくよくわかる。それ、あなたの娘さんもですよ。
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