第7話 傭兵と子供たち
自由行動の日、待ちに待った村の中を探索することにした。
無論、右も左もわからない世界で少しでも多くの情報を収集することが目的だけれどもなにより新しい世界で見たこともないものを見て楽しむというVRゲーマーとしての本能が騒いでいた。
村の建物は多くが木製で板張りの建物がほとんどだ。村は特産の丸太でできた堅牢な塀に囲まれてはいるが閉塞感はなく、隣接する森と相まってのどかな一枚の風景画のようだ。
住人たちは農作業や林業、材木加工で生計を立てて、ときおり外に出るときに南の大きな木製の扉をあけて出ていく。
人でにぎわってはいないが過疎化している印象はなく、子供たちの少しやかましい笑い声が響いてくる。そんな村だった。
「おりゃー!」「くらえーい!」「よけんなよコラー!」
「甘ぇぞテツ。いきなりそんな大振り振っても当たるわけねぇだろ。ってパール! お前正面から二人同時に攻撃しようとすんじゃねー! 味方にあたるぞ! 二人がかりで挑むなら一人は正面で陽動! もう一人は背後か側面に回れって言ったろ!」
子供たちの歓声の中にに聞き覚えのある声が響く。村の中央広場でアルファルドと二人の少年たちが仲良く棒でチャンバラをしていた。
2対1だがアルファルドは両手に持った棒で起用に子供たちの猛攻を防ぐばかりかアドバイスまでしている。そのへんはさすがプロの傭兵といったところか。
テツと呼ばれた活発そうな少年が果敢に攻めるがやはり当たらず回避され、スカされた勢いそのままに転ぶ。
元気少女のパールもアドバイスどおり後ろに回り込むが後ろ手に回された棒で渾身の一撃を防がれ、逆に衝撃で棒をはじかれる。
「くっそーまた勝てなかったぜ!」「はぁはぁ……アルさん強すぎだよぉ……」
「出直してこい。テツは振り方に余計な力が抜けたな。素振りの成果はでてるぞ。パールも前よりは周りのことが見えてきたな。頑張ったじゃねえか」
ねぎらいの言葉とともにアルファルドは二人の頭をなでる。その姿は傭兵としての冷徹なものからは想像もできないほど暖かかった。テツは悔しげな表情を一転させ、パールは顔を輝かせる。
そこにはいままでアルファルドは冷静な傭兵のイメージがあったが意外な一面があった。
「おつかれ。すっごくいいお兄ちゃんしてたね」
水を汲んできて三人に渡す。珍しいものを見せてもらったサービス料だ。
傭兵というと物騒なイメージがあったものだがアルファルドはかなりエルナ村の子供たちと馴染んでいる。
「なんだ、ユウキか。また新手に来られたら流石に参ってたぜ」
テツは水を一気に飲み干すと物おじしない性格なのか「ねーおねーさん、見ない顔だね。どこから来たの?」なんて聞いてきた。
「あ! それ気になってた! もしかしてアルさんの彼女?」
「へー! アルもついにかー! おめでとう!」
子供たちに愉快な勘違いをされヒューヒューと囃し立てられる。
っていうかすごい勘違いされてないかボク!! 会って数時間の人と付き合ってるなんてどういう風に取られたらそうなるの!?
「え!? いいいいやーボクとアルファルドはそんな関係じゃなくてー」
「残念ながら違うんだよなぁ。コイツはユウキ。結構腕が立つみたいだったから昨日俺の傍付きにしたんだ。こう見えてすっごい強いんだぞー、お前らじゃ歯が立たんかもな」
「へー! じゃぁ強いんだな! もしかしてアルより!?」「いや、アルさんより強かったら傍付きすっとばしてるでしょ」「それもそうかー!」と子供たちは新しい村人に興味深々になる。
「ねえねえ! それでさ! ユウキはどうしてアルの側付きになったの?」
「実はさ、ボクもよくわかんないままなっちゃったんだよね。初めて会ったのがアルファルドで一緒に獣人と戦ったらそのまま誘われてさ、ボクなんかが務まるか不安なんだけどさ」
回答しづらいテツから質問がいきなり来る。ぼかして答えたけど実際のところアルファルドがなぜボクを側付きにしたかは分かっていない。
そりゃあ確かに剣を振れば姉ちゃん以外には負けなしだったし、戦闘で動ける自信もあるけれどそれだけじゃないかもしれない。
しかしそれを考える暇もなく子供たちの質問攻めは続く。
「じゃあさ! じゃあさ! ユウキはどこから来たの! どこでアルファルドにあったの?」
「実はさ、ボクもよくわかってないんだよね。昨日気が付いたら森の中にいてそこでアルと会ったんだ」
「へー! タイヘンなんだなー!」
「じゃあアルさんと同じ流れものなのかな?」
パールから気になる発言が飛び出してくる。アルファルドはこのエルナ村に駐留する傭兵という名の用心棒だったはずだ。
「流れもの? アルもこの村の出身じゃなかったの?」
「そうだ。俺はこの村にいた師匠の側付きとしてやってきて師匠の死後もこの村に居ついてるんだ。割と居心地よくて気に入ってんのよ」
隣から回答が返ってくる。アルファルドは結構この村になじんでいた感じがあったのでてっきり地元の人かと思っていた。
「それでさそれでさ! ユウキはさ————」
その後も質問攻めは続き、テツとパールどころか集まってきた村中の子供たちに囲まれて最後は何故か一緒にボール遊び大会に参加することになり、ボクたちが解放されたのは2時間後のことだった。
子供たちから解放された二人は村はずれのベンチに座り、ひと時の休憩を楽しんでいた。
「そういえば意外と子供好きなんだね。ちょっと意外だった」
傭兵という物騒な稼業にしてはアルファルドは子供の操縦がうまい。
小さな村だ。外界からの人の出入りが少ない村で回りを堅牢な塀で囲まれているため、子供たちは外の世界というものに多大な興味を持っている。質問攻めが2時間程度で済んだのもアルファルドがフォローしてくれた成果だった。
「これでも大家族の上のほうで育ったからな。たんに慣れてるだけだ」
「へー! 何人だったの?」
「孤児だったから人数は変動してるんだがな。血のつながりはなかったけど皆といるのは楽しかった」
そう答えるアルファルドの表情があまりにも寂し気でこれ以上踏み込めなかった。大家族すぎる気もしたがもしかしたら孤児院か何かで暮らしていたのかもしれない。
そこに踏み込むのは早すぎると思って話題を変える。
「そういえばさ。昨日ギルドで神様とか天使とか聞いたけどやっぱりヒンノムでもそういうのがあるの? ボクそういうのずーっと気になっててさー」
「それだったら教会に行って来いよ。ここからあっちに20メルくらいだ。俺はそういうのあんま詳しくなくてな」
「そうなんだー! じゃあ行ってくるね! バイバイ!」
手を振って走り出す。目指すは教会、一体どんな人と会えるのだろう。ワクワクしてきた。
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