第4話 魔術講義
夕食を終えた後、アルファルドから魔術について教わることになった。
外に出て彼はどこからともなく取り出したメガネを装着すると教師モードへとテンションをチェンジする。
ちなみに伊達だ。仮想世界だら関係ないが、彼はとても視力がいいのでそんなものは必要ないはずなのになぜか持っている。
アルファルド家の煩雑さの原因の一端が見えてきた気がする。
「魔術には地水火風の属性があってそれぞれ生まれつき適性が違うってのは話したよな。」
「うん」
RPGにはよくある設定。地水火風の4大元素はもっともポピュラーな設定だ。
「じゃあ基礎中の基礎からいこう。魔術を使ううえで避けて通れないのが魔術因子。何のことかわかるかな?」
魔術因子。魔力みたいなものなのだろうか。だとしたら正解は
「最初の詠唱で出した白い球?」
「正解。『わが手に光を』の一節で魔術を扱ううえで必要不可欠な無属性の魔術因子を呼び出すんだ。」
「人間が使える一回の魔術で扱える魔術因子の最大量は両手の指の10個までで、魔術適性ってのは人による扱える因子の最大数を指すんだ。そんで因子の数が増えるほど魔術の規模や威力が加速度的に増えていく。例えば風だとそよ風から災害レベルの突風レベルまでな」
「そして左右の手を使って一度に2種類の属性の魔術を同時に使ったり、隣同士の属性を合わせた複合属性の魔術ってのもあるんだが今回は割愛するぜ」
それにしてもこの傭兵、講義にノリノリである。わざわざ伊達メガネをかけているあたりおかしなものでも食べたんじゃないかと心配になってくるテンションだ。
「今回は基礎的な風属性の魔術から。後処理何もしなくていいしな」
さらっと本音をぶっちゃけたな、この講師。
「そんで魔術には空間に宿る力、
「それじゃあ実践していい?」
せっかく新しい世界に来たんだからこの世界でしかできない魔術をマスターしたい。
講師もノリノリだが生徒ももっとノリノリだった。
「やってみたまえ」
「それじゃあ行くね。わが手に光を!」
手をかざして呪文を唱えると白い光の玉が中指の先から出てきた。しかし、数秒ほど経つと光は淡くなって消えてしまう。
「あ、消えちゃった」
「無属性の魔術因子はすぐに大気中に散らばってしまう。だから属性を固定する必要があるんだ」
「それで続く詠唱だね。降り立つ影だっけ」
「そうだ。火は東、水は南、風が西で土が北を指す。影の指す位置だから実際の属性対応はこの逆なのが面白い所だよな」
前にアルファルドが暖炉に火をつけたときは『神の火』というものに呼び掛けていた。
大天使ミカエル、神の右に立つものを意味するキリスト教の天使長を意味している。対応する属性は火で方位は西。だから影は『東方』にできるというわけか。
魔術の呪文がキリスト教に関連してくれているのはボクにとっては覚えやすくて助かる。
ママがクリスチャンだったことがまさかこんなところで役立つとは、人生何があるかわからないものだなあ。
「じゃあ水は『神の力』、土が『神の光』、風は『神の熱』ってこと?」
「滅茶苦茶呑み込みが早くて助かるな。こりゃ先生いらなかったかもな」
「たまたまだよ。知ってる知識が偶然対応しただけ」
たまたまなのかはわからない。この世界の創造主がそういう風にデザインした可能性は割と高め。
聖書なんてありとあらゆる作品の原点ともいえるものなのだからヒンノムの呪文がそういったものであることもまああるっちゃあるのか。
「それじゃあ手本を見せるぞ。一回で覚えなくてもいいからな」
そういうとアルファルドは手を上にかざし、手のひらに砂を乗せると詠唱を開始する。
「わが手に光を、降り立つ影は西方を指し、神の熱をもって逆巻く風を起こしたまえ」
かざされた手から二つの光る玉が現れ、緑色に輝きだすと手の中で回りだし、ミニチュアの手乗り竜巻が発生して手のひらの砂が巻き上げられる。竜巻は数秒ほどで手のひらの上から消えていった。
「と、こんな感じ。因子精製と属性固定は簡単だから後は螺旋回転を頭の中でイメージ出来ればこれくらいならすぐにでもつかえるようになるさ」
ふむふむ。なるほど。
「それじゃあ行くよ────────────────」
さっき聞いた呪文を唱えてみる。ひとつ、ふたつと魔術因子は指先から現れる。続いて因子が緑色に輝いていく。
よし、いい感じ。ここまではうまくいった。
そのまま手のひらの上で因子が回転するイメージをする。因子はゆっくりと動き始め、そして弾けた。
ボクの魔術は周囲に風をまき散らしただけで終了する。
「う~~~。上手くいかないもんだね」
「はじめてにしちゃあ悪くないな。イメージを固めるタイミングが遅かったから十分に回転しなかったのと回転半径が大きすぎたからかな。まあ大丈夫。こんくらいじゃ
「よーし、頑張るぞー!」
今度はほぼ同じタイミングで因子ができ、スムーズに属性が変化していく。イメージを前回よりも先回りで考えて術式を固める。以前よりも速く因子が回り始め、風に変換されると手のひらの上で小さな風の渦ができる。
「やった!」と言おうとしたときには回転がよれて渦が崩れて崩壊、風がぶわっと広がる。
「あ~~~、惜しかったー!」
できた!と思いかけて失敗しているパターン。一番悔しいやつだ。
「いや大分良くなってる。次は手首で助走かけてみるか」
「それアリなの?」
「要はイメージだからな。体動かしたほうが掴みやすいかもしれないぜ。まあ俺の場合ってだけだが」
「それじゃあやってみる。今度こそ成功させてみせるぞー!」
術を唱えて色が変わった段階で手首をひねって回転を加える。今度は少し上への螺旋の軌道をイメージに加えてみる。風は反時計の螺旋回転を巻き、手のひらでくるくると回る。手のひらを撫でる風が感触がくすぐったい。
「やったー!できたー!」
3度目の正直。でも竜巻は手の上でころころと回ったのちにすぐに消えてしまう。手乗り竜巻は可愛かったのですごく惜しい。
「できたな。そんじゃあラスト。お前の適性B+でできる最大規模、因子6個分の竜巻を見せてやる」
アルファルドはボクから少し離れると両手を大きく開いた態勢をとり、詠唱を始めた。
「わが手に光を、降り立つ影は西方、神の熱をもって逆巻く風を起こしたまえ」
片手に3つずつ緑色の光る玉が浮かび上がる。アルファルドはその体勢のままくるっと一回転して助走をつける。彼の周りをまわる6つの因子。
「翔風狼火!!」
聞き覚えなない一説の追加詠唱。風はぐるぐるとアルファルドの周りをまわっていき、野球のサイドスローのようなモーションによって前方に風が収束する。
1mほどの直径を誇る竜巻が暗い夜中でもはっきりと見えるほどに大きく渦巻いている。今までとはけた違いの規模と風圧。これでB+クラスの規模、ボクができる限界の竜巻なのか。
アルファルドは振り向き、自分で起こした竜巻を背景に最後の講義を始めた。
「これくらい制御出来るようになるのが最終目標だ。まあ頑張ってくれ。いくらでも相談には乗るからさ」
「すっご……これボクもできるようになるのかなあ」
「できるよ、そんでもってこれ以外も覚えてもらわにゃ困る」
「うん! がんばるよ! ところで最後に言ったのはなんなの?」
「魔術ってのはイメージが大事でな、因子を6個以上使う術式だと複雑すぎるから術のイメージを固めるために一定の動きを固定するんだよ。そのための自己暗示みたいなものかな」
「なるほどー。プログラムみたいなもんなんだね!」
「そういうこと。それじゃあ因子3個から行ってみようか」
そこからボクは竜巻を制御する練習を繰り返した。魔術の制御は思ったより難しく、今晩できたのは因子4個分くらい。
まだまだだけれど、アルファルド曰く順調だったらしい。
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