第3話 仮想の証拠
「ありがとう。これで契約は成立だ。お前の剣に期待してるぜ」
「うん! まっかせといてね!」
アルファルドに勧誘されて傭兵としてボクは仕事を得た。勿論この世界で戦うのは怖いし不安だってある。
けれどもアルファルドはボクが必要だって言ってくれた。それがただ、嬉しくて誇らしかった。
「明日傭兵斡旋所、俺たちはギルドって呼んでるところで正規契約を結びに行くから準備していてくれ」
「りょうかーい」
難しい話が終わるとアルファルドは「飯にしよう。歩き詰め戦い詰めで腹減ってんだろ。男料理で申し訳ないがまあ食べってってくれ」と言いながら厨房に向かう。
これから共同生活を送るのだ。彼を手伝おう。
「あ、手伝うよ。今日は何にす───────」
途中まで言いかけてセリフが止まる。─────ヴィン、と
アルファルドが片手で十字を切るようなアクションをしながら手の中の玉ネギを軽くたたくと青いウィンドウのようなものが出現した。
詳細までは見れなかったがなにかの文字、ないしステータスのような電子文字が見える。アルファルドはそれを見ながら一安心したように息をつく。
「げ、こいつ結構やばかったのか……腐る前に気付いてよかったー」
後ろからのぞき込むと黒い縁取りの青黒いウィンドウに白い字で
LIFE 21 OVJECT LEVEL 1
と書かれてある。
ますます上がってくる仮想世界の証拠。
最初はは半信半疑だったけどモノにわざわざラベリングやステータスをつける世界なんてそんな無駄にハイテクな異世界なんてあるはずがない。そういったものは夢小説で十分だ。
この世界は、誰かが何らかの意図をもってつくりあげた仮想世界の可能性が高い。次々上がる『仮想世界であることの』証拠の山。ヒンノムは次々にぼろを出していく。
「ねえアル、これ何?」
「おまえその辺の記憶まで落としてんのかよ……」
「えへへ、そうだったりするんだよ」
笑って誤魔化すしかない。直感だがこの世界の人に向こうの話をするのはあんまり得策じゃあないと感じた。
この世界が現実世界なら神と呼ばれる存在がこの世界を運営している人々だということを意味するからだ。彼らにしてもあまりいい気分ではないだろう。
「こいつは天の窓なんて呼ばれるものでな、さっきの動きをしてモノに触ると鮮度や命値なんかを見れるもんだ。人間にもついてんだぜ」
アルファルドが指でウィンドウを斜めに切ると玉ねぎの天の窓はすぐに消えた。
さっきの真似をして十字を切ってから自分の手に触ってみると玉ネギ同様天の窓が現れた。
─────────────────
| LIFE 99987 HUMAN F OCL 25 |
| MAGIC Av:C- B- D+ B+ |
─────────────────
LIFEはおそらくHP、その先は種族と性別なのはわかるんだけどその先がわからない。
「このOCLとMAGICは?」
「OCLは俺も知らん。戦えば戦うほど上がってって最初は18だったがいまは61まで上がった。なんだけど特に変わりはない。重いものが持ちやすくなったとかそういうのはあったが普通に筋力つけるのと何が違うのやら」
つまりは意味ありげにしている謎のステータスということ。
「MAGICは魔法の適正だ。左から地水火風の適性を示してる。これも戦えば変動するときはあるんだけど各1段階しか伸びなかったな。そんで俺はもう頭打ち」
「へぇ~ボクは水と風属性なんだぁ! ねぇ、アルファルドはどんな適正なの?」
魔術はオーソドックスな地水火風の属性区分。生まれつきと経験値でレベルアップするあたりますますゲーム的で仮想世界のようだ。いや、もう完全に仮想世界に違いないだろう。これ。
「地C+水D火A風A+だ。地は地形操作。俺の適性だと耕作が多少楽になる程度。水は温度の低下と水の生成。Dはじょうろレベルだ」
意外としょぼい。普通のゲームとかだったら派手なエフェクトともに巨大な氷や土の壁ができるのだがヒンノムでは大した規模の超常現象は起こせないらしい。そんな程度じゃ実戦では目くらましにしかならない。
だからアルファルドは投擲武器を得意としているんだろう。
「じゃあ火と風は? そっちは結構すごいんだよね? 見てみたいなぁ」
「そっちは追々教えるさ。さ、飯の支度するぞ。井戸で野菜洗ってきてくれるか」
そうってアルファルドは籠に盛られたキュウリやらジャガイモやらを渡してくる。
具だくさんそうなので今晩の夕食が楽しみだ。
「りょーかーい! それじゃ、行ってくるね! それと後で魔術について教えてね」
籠に盛られた野菜をもって家のそばにある井戸に向かう。
井戸があったり一人暮らしらしいのに家を持ってたりアルファルドは年の割にはお金持ちだ。やっぱり危険な仕事だとそれなるの手当が出るのだろうか。
益体もないことを考えながら水を汲み、たらいに流し込むと波紋はすぐに収まり、鏡のように光を反射した。
水面にはVRゲームのアバターではなく医療用に自分の顔を再現した
肩まであるパールブラックのロングヘアー、小柄で華奢な体格にくりくりとした大きなアメジスト色の瞳。
さらにはカチューシャのデザインまで一緒。これが偶然で済むものか。
ボクが受けたのは最先端治療の臨床試験みたいなもんだ。当然情報セキュリティも最強のもの。機密情報の塊みたいなボクのフルダイブマシンの中からアバターを盗まれた。
つまりはボクをこの世界に連れてきた連中はそれだけの技術力を持っているか、もしくは病院と癒着していたっていうこと。
間違いない、この世界は巨大な陰謀で包まれ、その渦はボクの想像をはるかに超えて色々なものを巻き込んでいる。
ボクの敵はあまりに強大で、闇の深い組織。水鏡は事実を映し、ボクの心は水面のように揺れていた。
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