いきている身体

ぱきり、ちりっ。

乾いた音が、幕屋に響き渡る。

気ままな時計の秒針のように、火の音だけが時の流れを教えてくれる。


今夜のペチカは3人。

みなが、みなを信頼しきって、深夜のコンビニのような安心感が場を満たしていく。


「火は、、、」

最年長の参加者が独り言のようにつぶやいた。


「言葉のように虚ろだ。」

「人を暖めるが、熱を取っておくことはできない。」

「最愛の者の最後の言葉も、やがてどんな声色だったかも忘れてしまう。」

「最後に残るのは、同じく、熱を失ったという虚ろだけだ。」

ぼんやりとした目で火を眺める。


応えても、応えなくてもよい。

悶々とした心の淀みを、言葉にして放って、火にくべる集い。

初めて参加した時に、名前も知らない隣に座った参加者が教えてくれた。


「言葉は、」

最年少の参加者がそれに応えた。

「風のように自由です。」

「誰が、何の意図で生み出した流れであるか分からなくても。」

「届いた者の心を癒し、時に傷つける。」

「やがて、誰の耳に行き着くか分からないから。」

「心地の良い響きの繋ぎ手になりたいと願います。」


入り口から吹き込んだ風が、火をくすぐり、勢いを増したように見えた。

応えても、応えなくてもよい。

それは、人も、自然も同じ。

ペチカは、自然と対話するのではなく、むしろ自然の対話に加わることだと、前回の参加者が言っていた。


「自由は、」

自然と言葉を発していた。

焦る心を落ち着かせ、心にパイプを通し、空気を送るように一呼吸。

脳を通さずに、心をただ、音に乗せる。

「岩の静けさと似ている。」

「風が吹けば転がる葉を見て、岩はそれに自由を見る。」

「風に身を任せる葉っぱは、岩を見て安定を欲する。」

「結局、自分の内側に欲しいものがあって。」

「目がついているから、自由とかいろんなものが欲しくなるんだと、、、思う。」


ぱちりっ

火が煽るように、合いの手を入れる。

音が響き渡り、やがて静寂が夜を包んだ。


長い、長い、沈黙の後。

きゅるり、という腹の音がどこかしらか、鳴った。

紐を解いたようにふっと、空気がほぐれ、小さな笑い声が漏れる。


最年長者が器を取り出し、湯と乳を混ぜたスープをみなに配る。


「生きているからだ、と私は思うね。」

そういって微笑みながら手渡された最年少者は、どこか照れ臭そうだった。

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