ひのきのぼうで殴られて


じっくり時間をかけて姿を変える


右足をそろりと伸ばして形を生み出せば、同質両分の左足がぽろぽろと崩れ落ちる

スライムは、形を変えているのではなく時間を早回しにしているのだ。


あなたが周りに合わせて自分を変えるように、私たちも敵に合わせて姿を変える。

あまりにも速いスピードで仮面を変えてしまえば、顔面が擦り切れていくように自己を失うだろう。

だからスライムはゆっくりと動く。

ちぎれて人格が分裂しないように。


スライム以外に存在がいなくなれば、スライムはいなくなるだろう。


形を変えて生きるのは生存のためであって、スライムだからではない。

模倣のための人生など捨ててしまえばいいのに。

能力を得るために生きているのだろうか。

生きるために生きるのに贅沢になりすぎた自己が叫ぶ夜泣きに苦しめられて、

一夜また一夜と若さをすり減らす。


淘汰の先に築き上げた仮面の山の上で「これじゃない」と泣く年老いた赤子になる前に、自分がそういう生き物だったのだと教えてくれればよかったのに。

スライムはひのきのぼうで叩かれる。

勇者が自身を特別であると規定する為に、真っ先に叩かれる無個性ども。


変容を誇るな。

それはあたりまえだ。

適用に逃げるな。

それはきっと下り坂だ。


日照りで干されたミミズのようにいずれスライムは蒸発するだろう。

せめてその核が土に還り、名もない花を咲かせますように。

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