全てを忘れてしまう、明日になる前に。

隣人が貧困の母ならば、透明人間こそが幸福の父だろう。

悩みのない灰色の景色が誰も描くことのない平和の正体だ。


光の速さで目に入る現実こそが最も遅く、虫の知らせが最も早い。

なのに僕らはみな卓越した言い訳の紡ぎ手だから、柔らかい絹で目を塞ぎ、前後不覚の亡者となる。


目の前の現実はいつだって幸福だろう。

生きているのだから。


目をふさぐことですべてが逆転する。

温度が、音が、光が知覚する君に敵意を向けている。

ように感じる。


訪れる全ては差し出された羊飼いの右手。

掴むための手を、後ろで組むんじゃない。

両手は結ぶのではなく、探るために。

何を求めるのかさえ分からなければ、文字を書けばいいじゃないか。


さあ、文字を落とし込め。落とし込め。

何を書くのでもなく、吐けばいいじゃないか。

吐瀉物の中に砂金が混じる奇跡だってあるかもしれないだろう。


人生最大の謎は常に頭の中にある。

探れ、落とせ、吐け。

誰もが目をそらす新宿駅のゲロの理由に価値を見出せるのは本人だけなのだから。

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