あがりを決めた自然人

火の光に照らされたその人は、何にも背負っていなかった。


森の中で火を起こし、虫にも気を散らされずに薪を見つめる。


光に集まる虫たちが、慌ただしく飛んでいる。


羽ばたけど、羽ばたけど、当たる光は同じなのに。

狂気に取りつかれたように飛び回る。


火の中に飛び込む一匹が、音もたてずに消えていった。


肩にとまったもう一匹の虫が、それをじっと見ていた。

足と羽を休めてみれば、きっと違和感に気付くはずだ。


何におびえているのか。

何に目を背けているのか。


幸せは、すべての責任の裏側にある。

その人は言った。


産まれた時に裸で、何も持ってはいなかった。

死ぬときもきっと、目に見えるものは持ってはいけないんだろう。


感じたことや、考えたこと。

幸せを感じて過ごせた時間の長さこそが価値なんだと教えてくれる。


静かな夜に、風の音と、火の輝き。

それだけで幸せで、明日が待ち遠しい。


人の枷を進んで取り除ける人間になれたなら。

自分の美学だけに命を没頭できたなら。

死が恐ろしくなくなって、火に飛び込むこともできるのだろうか。

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