食料棚(ラダース)星を駆ける
私は食べられてもかまわない。
たとえ私の物語がここで潰えてしまっても、食べたものの記憶に残る。
食に限らず、命の在り方は託されたものによって決まる。
私よりも強い命に食べられるなら本望だ。
文字を持たない私たちは、文字を使う神さまよりも欲がないという。
忘れてしまうから、貧富の差が少ないのだと。
書き留めるから、色のない拘束が付きまとって誤解を生むのだと。
神さまの世界は、星が数えきれない人であふれ、ついに星の世界へと旅立った。
神さまが帰ってきたときのために、私たちが作られた。
私たちの祖先は、文字という技術を受け取ることを拒否した部族だった。
それ故に数も増えなかったが、争いも少なく穏やかな暮らしをしていた。
私が神さまに救われたとき、私と兄様は神様に尽くすことを誓いました。
それから多くの地を巡り、ついに高い高い山のてっぺんにたどり着こうとしています。
私たちの身体は、神さまと違って強くありません。
高くなるにつれて、息があがり、立っていられなくなるほどに肺が軋みます。
私たちはわかっていました。
神さまに作られた小さな私たちは、神さまと同じ場所へは行けない。
だからこそ、最後はこうした形で物語の終わりが訪れるのだと。
これまでに三人。
終わりを迎えました。
断り続けた神さまも、一人目を口にしたときに覚悟を決めたのでしょう。
八人いた従者も残り五人。
私もそれを口に運び、食べました。
命は、その肉に宿る。
食べたのなら、進むしかない。
草しか食べぬ羊たちには分からない物語なのです。
凍えるような寒さの中で、命が消えてしまう前に決断をしなければなりません。
皆、自分の命に問いかけるように足を進めます。
空を見上げれば、手が届きそうなほどに近い宇宙。
流れ星が絶え間なく降り注ぐこの空の上に、神さまが帰る。
私の命が語り継がれることは、あるのでしょうか。
星の国の物語の一片になれるのでしょうか。
もう、限界なのでしょう。
足で歩いているのが分かりません。
かすむ景色がわずかに前に進んでいる。
かじかむ手でそれを握りしめて。
私は私の物語を終える。
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