おじいさんは山へ狩りに
山を登る途中、いつも頭をよぎることがある。
なぜ、私は山へ行くのだろう。
なぜ、今日も山に登ってしまったのだろう。
汗で服の中は蒸れ、籠と背の間には滝のような汗が流れる。
けだるい疲労感が足を満たして、一息つきたいと訴えかける。
だけど、知っている。足を止めてしまえば、しばらくは動けない。
休憩するぐらいなら、登り切ってしまったほうがずっと楽だ。
惰性と惰性をはかりにかけて、一歩ずつ進んでいく。
結局は意志の力など存在しないことも知っていた。
どれだけ惰性に気分を乗せてやるか、それが重要なのだ。
前日に草履を整えるのも、鉈を少しだけ研いでおくのも、惰性に対する撒き餌に過ぎない。
無駄にしないために、続ける。
その考え方の方が、私にはあっていた。
前日仕掛けた罠を、一か所ずつ確認してゆく。
三か所目にそれはいた。
小さな鹿が罠にかかっていた。
足元にはじんわりとした赤い血が滲み、周囲の草は親鹿が踏みまわったのか、少しだけ荒れていた。
足を止め、耳をすませば、視線を感じる。
親鹿が見ているのかもしれない。
胸の内で少しだけなにかがざわめくが、それ以上の高揚感があった。
高揚感に年齢は関係ない。
本能的な欲求なんだ。
獲物を捕らえる。
内なる自分が心を滾らせる。
プログラムのように、勤勉に体に血を巡らせる。
小鹿の大きな瞳に私が映る。
私は、私が引いた惰性の道を通り、本能に従って命を刈った。
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