あと3人が引き継ぐ呪い

輪っかに首を通したところで、男は何がおかしいと感じた。

どこからのタイミングで人生をすり替えられたような、化かされた感覚。

違和感の正体が分からぬままこの世を去るには少しだけ悔しい気がして、ひょいと首を引っ込めた。


時間だけはたっぷりとあった。

ひとつひとつ点検してゆく。

我が人生を化かした正体。

それを断罪してから退場しても遅くはない。


埃被った子供部屋に入る。

もう何年も開けていない学習机の引き出しをあさると、白い固まりが目に止まる。

これは骨だ。

たしか、河川敷で拾った骨。

小さな頭蓋骨だった。


小学生のころ、友達と川を探検をしたときに見つけた骨。

野球ボールかと思い、拾い上げたものがそれだ。

空気が固まり、思わずそれを投げた。

恐怖から友達を呼び集めたが、それが不味かった。

四人に不気味な緊張感がベールのように包み込み、ありもしない罪の断罪式が始まった。


「これは見つけた奴が最後まで持たなきゃ駄目だよ。」

「じゃないと不幸になる。」


今になって考えれば、おかしな話だ。

このサイズの頭蓋骨は人骨であるわけがない。

どう見ても猿の頭蓋骨だ。

川の上流には深い森が広がっている。

確か、猿が住んでいた。

それでも、そのときの私の世界にとっては、紛れもない人骨であった。


河川敷で拾った透明な罪を背負う。

長い年月の間、空白の呪いに苦しめられた。

些細な勘違いかもしれない。

だが、確かにその呪いは私の人生の一部を削り取ったのだ。


白い骨に手を伸ばす。

「君のせいでは無い。」

乾燥したそれは疲れたように見えたが、持ち上げると質量以上の存在を確かに感じた。

ここから人生が変わったのかもしれない。

こくりと、頷いたように見えた。


あの時、あいつが紡いだ一言の呪言が、私の世界を書き換えた。

「私たちが背負った白い呪いを、あいつに返さなきゃなぁ。」


リンゴほどの重みを仲間に加えて、夜道を歩く。

何年分かの重い意思を加えて、10tほどの衝撃を蓄えた爆弾となる。

「どうか、受け止められますように。」




翌日、とある住宅の駐車場で、首吊り死体が見つかった。

足元には、小さな頭蓋骨とともに、小さな便箋が置かれていた。

「じゃないと不幸になる。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る