あん肝が美味しい理由
お金持ちになろうとしたわけでもなく。
幸せに向かって奔走したわけでもない。
むしろその逆の人生だった。
きらびやかなファッションよりも古着を好んだ。
昔読んだ作品の主人公たちが、古着しか着ることが出来ない天使たちだったからだ。
24時間輝くコンビニよりも、夜中の静かな暖房の明るさと猫のぬくもりを好んだ。
人生の師の書斎が、猫と羊と古びた書籍の匂いで満たされていたからだ。
無限の可能性が紡げるゲームの中で、有限性を求める縛りを好んだ。
全てを扱えるほどに器用ではなく、専門性に特化した遊びの方が心が躍るからだ。
繰り返す日常と、次第に増える余裕の中で、憧れるのでもなく、旅立つわけでもない。
強請ることもなく豊かであり、困窮するほどに絶望することもない。
なぜなら、生まれつき目は上しか見ることが出来なかったからだ。
恵みは齎されていた。
降り注ぐそれを横取りした者もいたが、やがて泳ぎ疲れて糧となった。
捕食者も顎をこすりつけるのが嫌でわざわざ降りてくることもなかった。
降り積もるものの生前を慰みに想い、時を過ごした。
気付けば幸福を自負するものは皆、屍となって白くなっていた。
同胞は幸福のままに眠りにつき、静かでゆっくりとした時が過ぎていった、
海底の底で私はお金持ちで、幸せ者。
みんな早く降りておいでよ。
海底は良いところだぞ。
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