グラディエーター

ひとつの主張が貫かれるまでに、途方もない時間と知識が紡がれている。


人がひとつの主張を持つということは、恥ずかしいことではない。

素っ裸で立った大地にようやくひとつの武器を握りしめた瞬間のように、それは生暖かく頼りない。


武器を待たぬゆえに敵として見られていなかっただけだ。

一度握れば何度も負けるだろう。


武器はもっぱら暴力から守るための盾として使われ、激しく損傷するだろう。


だから、初めは武器を持たぬものに対して振るうのだ。

私は武器を持っているのだと。

弱肉強食のルールに従って情けなくも、生き残るために貧弱な武器を振り下ろす。


返り血のように浴びる僅かな称賛を吸って武器は力を帯びてゆく。


その先にあるのは華やかな決闘だ。

互いに主張をぶつけ、技を披露する剣闘士のためのコロッセオ。

カフェで学校で会社でも、経験と知識をかけた決闘は行われ、人が死ぬことがない激しい衝突が人を魅了する。


そこには、確かに熱があった。

古代から続く人の熱が魂を震わせて、あるがままの野蛮な叫びが汗を誘う。


子供たちはそれを見て憧れを孕む。

いつかあんな戦いをしてみたいと。


少年は武器を探しに家を出た。

英雄たちの武器が納められた、図書館という神殿へと。

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