人形師の財テク

株式投資、不動産所得、事業所得、給与。

収入の形は様々だけど、手っ取り早いのは奴隷ビジネスではないかと人形師は考えた。

自分の代わりに労働し、自分のためにお金を稼ぎ、自分を慰めるために傍にいさせる。

これは良い考えだと、人形師はせっせと人形を組み立てた。


人形は完成した。

愛くるしい、男の子の人形だ。

どこからどう見ても、普通の男の子にしか見えない。

これならきっと人に溶け込むことも出来るだろう。


「どうして僕は生まれたの」

人形はしきりに問う。

どうして命あるものは存在意義を求めるのだろう。

うんざりしながらも、決まり文句を投げかける。

「お前は幸せになるために生まれたんだよ。」

「生まれて、いろいろな経験をして、死ぬまで生きるんだ。」

「そうすればお前の心が満たされていくからね。」

「いいかい。心を満たすのが大切なんだ。忘れてはいけないよ。」


人形はしっかりと働き、稼ぎ、帰ってくると今日の出来事を楽しそうに話した。

それは驚きもあり、楽しみもあり、時々退屈でもあった。

ともあれ、しっかりと稼いでくれる便利な人形。

私の考えに間違えはなかった。


人形は次第に増えていき、やがて人形の国が生まれた。

その天上から糸が垂れ下がっている。

人形師は天に上り、頭に繋がれた糸から人形たちを見守ってくれるという。


人形の頭に繋がれた糸は天上で毛玉状態にまかれ、静かに振動している。

やかましく口を開く人形たちにうんざりして天上に家を買った。

人形師はコーヒーを飲みながら次の人形作りに着手する。

さて、次はどんな人形をつくろうか。





糸を紡ぐものがいる。

糸に繋がれるものがいる。

人形師はお金を儲けるが、人形は心が満たされる。

どっちがいいとか、悪いではなくて。

幸せになる手段は案外石ころのようにたくさん落ちているのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る