ゾンビは魔法を使いたい
六か月、ゾンビが出来上がるまでを見た。
まず、視力が落ちてきた。
物理的な視力ではなく、遠くを見る力の方だ。
何か月先に販売予定の新作や、お金を貯めたら欲しいと思っていたそれ。
おぼろげになり、蜃気楼のように揺らめいてやがて見えなくなり、身の内から沸き立つ蒸気のようなそれはゆっくりと沸点を失っていった。
次に、筋肉が衰えた。特に足に筋肉だ。
遠くの物よりも、近くの物。手の届く範囲の安物に手を伸ばして時間を安売りし始めた。
貫通力の乏しい、量産された娯楽品はちっともハートに到達せず、失望と陰鬱感がマイルのように蓄積した。
水が落ちるように、下へ下へ。足先からおもりが降り積もり、そうして退屈で鈍い足が出来上がった。
そして、頭が鈍くなっていった。
とにかく目先の快楽を。
溺れながら泳ぐように、他者と未来の自分に救いを求めて、買い手のいない言い訳を量産し続ける。
せめて、それを書き綴れば買い手もいるかもしれないのに。
そんなことは頭にもない。
体を休めるために働き、働きながら体を酷使する。
ならばあなたはどこにいるのだろう。
魔法を使うためのステータスはとうに失われた。
体力と時間だけのパラメーター。
ゾンビになるまであと少し。
気付けばカレンダーを転がるゾンビになっていた。
食べて、眠り、働いて、食べる。
四肢が終わりを迎えるまでそれは続くのだろう。
魔法が使えたらな。
どうやら魔法を使うには知力が必要らしい。
知力を増やすにはどうすればどうしたらいいのだろう。
ゾンビは魔法を欲した。
はやく人間になりたい。
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