ショートコント 面接シリーズ~「面接侍」
鵜川 龍史
面接侍
〔登場人物〕
面:面接官 上手(右側)
応:応募者 面接侍 下手(左側)
応:(ノックする)失礼!(扉を開けて中に入る)
面:(首をかしげる)……どうぞ、そちらにおかけください。
応:ほう、そちらと、な。貴殿がそのような腹積もりであるなら、拙者はこちらにかけよう。(と、もう一つ、椅子を持ってきて座る)
面:ちょっとね、あなた、どういうつもり……。
応:はっはっは。我らは、お互い初対面。腹の探り合いは、むしろ望むところであるぞ。
面:わかりました。そういうことなら、このままお引き取りいただいても。
応:いやいやいや、まあ、そう早まることもあるまい。貴殿も、人手が必要だからこそ、こうして値踏みをしておるのであろう。
面:まあ、そうですけど。
応:それなら、話を聞きもせぬというのは、早計というもの。
面:分かりましたよ。では、お名前は?
応:面接侍。(どや顔)
面:お名前は?
応:(別ポーズで)面接侍。
面:本名は?
応:(身構えた様子で)面接・ザ・ムライ。
面:村井さん?
応:面接・ザ……。
面:村井さん!
応:(びっくりした様子で)はい。
面:ザ・村井さん?
応:(力強く)はい!
面:大丈夫かなあ。
応:何を心配しておる。どんな輩でも、拙者が切ってしんぜよう。
面:違いますって。
応:何が違うというのだ。
面:これ、テレオペの募集ですよ。
応:テレというと、テレフォーンのことであろう。
面:アイフォーンみたいな言い方、しないでくださいよ。
応:テレフォーン・オペ*×△*〇×△……であろう。
面:オペ……何?
応:オペ*×△*〇×△……。
面:知らないんでしょ?
応:知るとか知らぬとか、オペというのは、そのような単純なものではない。
面:はい?
応:胸に手を当ててみよ。
面:え?
応:(胸に右手を当てる)感じるであろう。オペの鼓動を。
面:知らないんでしょ?
応:(右手に左手を重ねる)かすかだが、確実にそこに存在する、その……。
面:オペレーター。
応:そう、オペレーター。
面:知らなかったよね?
応:はい。
面:(頭を押さえつつ)だーかーら、お客様から電話がかかってくるので、それに応対する仕事ですって。
応:なるほど。電話に出て、切ればよいのだな!
面:切っちゃダメです!
応:電話を切らなければ、他の客人と手合わせできないではないか。
面:ああ、話が終わったらね。
応:もちろん! 切って切って、切りまくろうではないか。
面:それじゃあ、試しにやってみますか。
応:いざ、尋常に。
面:トゥルルルルル。トゥルルルルル。
応:(面接官をじっと見ながら、居合抜きの姿勢)
面:トゥルルルルル。トゥルルルルル。
応:(面接官をじっと見続ける)むむ。
面:(受話器を取って、電話に出るしぐさをして、応募者に促す)トゥルルルルル。
応:あい、わかったあ!(刀を抜いて切るふり)
面:ぐああああ。(倒れる)
応:(刀を払う)また、つまらぬものを切ってしまった。
面:何やってるんですか。僕のジェスチャー見てました?
応:ジェスチャー? 切れ、という、あれか。
面:違います!
応:そうなのか。
面:いいから、すぐに出てくださいよ。
応:なかなか、注文が多いのう。
面:行きますよ。トゥルルルルル。
応:ガチャッ!(刀を抜いて、前に一歩出て、袈裟に切る)
面:ぐああああ。(倒れる)
応:(刀を払う)また、つまらぬものを切ってしまった。
面:だから、どうして切っちゃうんですか。
応:おぬしが、すぐに出ろと申したのであろうが。
面:ああああ。そういうことじゃないのに。
応:じゃあ、どういうことなのだ。
面:そもそも、人を切っちゃダメなんですって。
応:ぬぁにぃ~! 人を切ってはいけない⁉
面:ダメに決まってるでしょ。
応:それでは、拙者は何を切ればいいというのだ。
面:電話を切るっていう話、してませんでした?
応:チェストォ!(電話に向かって刀を振り下ろす)
面:(電話を守る)やめて!
応:うるさい! そこをどけい!
面:電話だけは、どうか電話だけは!
応:刀の錆にしてくれるわ!
面:こら!
応:はい。(しゅんとする)
面:電話を切るって、そういうことじゃない! とにかく、電話に出て!
応:もしもし。
面:もしもし。
応:では、始めよう。
面:何を?
応:メス。(メスを受け取り、患者を開腹する)
面:何してるのかな?
応:オペの邪魔をするでない!
面:オペが違う!
応:ご注文になったオペとは違う商品が届いた、ということでよろしいでしょうか。
面:え、ええ。ええ?
応:大変申し訳ございません。すぐに新しいオペと交換させていただきますので、商品の到着まで、今しばらく、お時間をいただけますでしょうか。
面:えー、また待つの?
応:チェストォ!(刀を抜いて切る)
面:ぐああああ。(倒れる)
応:届いた商品で我慢しておればよいものを。欲をかくからそういうことになるのだ。
面:ちょっとちょっと。
応:うむ、少しは懲りたであろう。
面:お客さんのこと、切っちゃだめですって。
応:ん? そうなのか。
面:それに、そもそも、電話の話し相手に、刀は届かないんですよ。
応:(膝をつく)そ、そんな……。(面接官に向き直る)などと、驚くとでも思ったか!
面:はい?
応:(プレゼン声で)離れていても大丈夫。そう、テレフォーンならね。
面:アイフォーンみたいに言わないでくださいよ!
応:アイフォーンなら切れるのか?
面:どうでしょう。試してみましょうか?
応:どうやって?
面:(iPhoneを取り出して電話をかける)トゥルルルルル。
応:もしもし。
面:もしもし。先日、面接させていただいたTELAPOですが。
応:なんであるか。
面:残念ながら、今回はご採用を見合わせることとなりました。
応:な、なんだと!
面:ご希望に添うことが出来ず、大変申し訳ございません……。
応:ぐああああ!(切られた感じで倒れる)
面:おおー。(iPhoneを、切れ味を確かめる感じで眺める)離れていても、切れ味抜群。そう、アイフォーンならね。
ショートコント 面接シリーズ~「面接侍」 鵜川 龍史 @julie_hanekawa
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