液
サンダルウッド
第1話「孤独量産機」
アイスティーにミルクを注ぐとき、私の感情は起動する。
純潔で透明感ある茶の液に、とぽとぽと無遠慮にミルクを捧ぐ際のそれには、微かな罪悪感と快感が混在している。
液の気持ちを忖度する。液は突然の変貌に困惑しているようにも見えるし、ときには待ち望んでいたようにも見える。変貌の様は激しくかつ
現実に戻ると、行き場のなくなった液をそっとかき混ぜる。均衡を取り戻した液に、かつての面影はなかった。
仕事を終えて表に出ると、目の前に鳩の死骸が残置されていた。
無惨な姿をした生物の羽根にはくっきりと車輪の痕が残り、周囲には赤紫色の濁り血が溢れている。私は、しかしそれを見て何も感じなかった。
驚くでも哀れむでもなく、ただ異様なその光景を脳に焼き付ける。左手に抱えた作業着に染み付いた塗料の臭いがやたら鼻につき、ほんの少し眉をひそめた。
これまでの二十数年間、生き方を間違えたと思う。
中学時代、気に入りの歌手をクラスメイトが冗談半分に罵倒したことに耐えられず、左腕骨折の重傷を負わせた。
似たような事例は――程度の大小こそあれ――他にも数知れず、そのたびに私は孤独を産んだ。孤独は何の悦楽もなく、産み出すたびに感情を
私は、孤独を増やし続けた。もとより学力だけは高かったので、推薦による難関私立大学への進学が濃厚であったが、ここでも私の心は行き場を失った。他愛もないことで場を乱し、次々に孤独が蓄積された。担任教師から、「推薦状は書けない」と告げられた。私の中の感情は、もう半分ほどになっていた。
私という孤独量産機には、両親も手を焼いていた。
マイペースで、「子どもの自主性を尊重する」などという悠長なことを口癖にしていた父も、さすがに推薦取り消しの際には立ち上がり、胸にしまっていた持論を展開し始めた。
父は、「多少の負には目を瞑り、人知れず自身の正を養うのが賢く生きる秘訣」だと繰り返す。お前ならそのくらい分かるだろう、と呆れた様子だったが、私には理解できなかった。もし理解できていたらそもそもこんな事態にはならないと、馬鹿正直に反論した。
結局、母の仲裁により、少人数制で面倒見が良いことを売りにしている二流の私立大学を受験し、進学した。大人数で混沌とした、時折悪いニュースも目にする一流私立大学よりも、私に合っていると判断したようだ。これには不満があったが、彼らの気持ちを忖度し受諾した。
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