舞台裏とあやしい影

 も、森の調停者であるフクロウは一晩中森を飛び回っていた。

 不正な縄張り争い、餌を捕る経路を意図的に邪魔しようとする行為などへの勧告、人間で例えるならば領土問題、自由航海権、経済的権利などに関する争いに対し調停を行っていた。


 ある程度のほとぼりが冷めてフクロウが、ほー、と一息ついていたその時、どこからか、かすかな声が自分を呼んでいるのに気づいた。


 ……さん、フクロウさん……


 声の出所を探したが、見つからない。


 ……フクロウさん、こっちです、下です……


 フクロウが高い木の枝から地面に目を凝らすと、そこには小さなカメどんがいた。


「カメどん、あなたどうやってここまでやって来たのですか。あなたの足なら2、3日で辿り着ける距離ではないはずです」

「はい、大事な相談があって来ました。話を聞いてくれますか?」


 フクロウはカメどんの前にふわりと、降り立った。

 海辺の生物がこんな山奥までやってくるとは、何か深い訳がありそうだ。フクロウはカメどんの言葉に耳を傾けた。


「もちろんです。聞かせてください、どんな小さなことでも構いませんよ」 


 そのフクロウの優しい声に、カメどんは涙がこぼれた。疲労と今まで押し込めていた悔しい思いが堰を切ったように溢れ出た。


「フクロウさん、実は——」


 カメどんは最初の競争からその後のうさ吉の搾取など、洗いざらい告白した。

 カメどんはこの時点ではキツネ之介の事を疑っていた訳ではなかった。だがこの勝負は重要な一戦になる、念には念を入れるためにも森の調停者であるフクロウに証人になってもらおう、そう考えたのだ。


「そうですか。それは明らかな不正行為ですね、公の場で裁かれなければなりません。ただその為には証拠をつかむ必要があります、私にお任せください。うさ吉さんに会いに行くのはいつですか?」


 カメどんがその日時を告げると、フクロウはその日をしっかりと脳裏に焼き付けた。


「わかりました。ご安心ください、悪いようにはしませんから——」



 そして今に至る。

 カメどんはフクロウが来てくれなかったら今頃どうなっていたかと思うとぞっとした。


「フクロウさん、本当にありがとうございました」

「いえいえ、これも私の仕事ですから。では私はこれで——」


 そう言って、バッサバッサと羽を舞散らしてから大空へ消えて行った。


 その頃、周りにいた動物たちもほとんどいなくなっていた。

 最後のたぬきが木の影に消えたとき、その背後に一つの影がうっすらと見えた。

 尖った耳と、鋭い目。その目がじっとカメどんを睨んでいた。そしてこう呟く。


「ぜーんぶ聞かせてもらったよ。キミ、告げ口とは卑怯なことしたもんだね」

 

 カメどんは凛としてその視線を睨み返した。

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