調停者は空からやってくる
皆がその音を見上げると、太陽の白い光に思わず目が眩んだ。
やがて数枚の羽が、その場にふわりと舞い降りて、音の主は木の枝にとまった。
そこから辺りを見下ろしていたのは、相手の心を見抜く大きな目と神秘的な茶色の羽——森の調停者、フクロウである。
いつしかその横、木の陰などからリス、シカ……気づけば熊やライオンまで集まって来ていた。
キツネ之介の目が丸くなった。
「フ、フクロウさんじゃないか。真昼間も働くなんて精が出ますねえ」
「ええ、必要とあれば24時間働きますよ。それより聞かせてもらいましたよ、あなたたちのやって来たこと」
いつの間にか、うさ吉、キツネ之介を森の動物たちが囲んでいた。
熊が2匹をにらみながら、足元の石を一つ蹴飛ばした。
それを見てびくっと肩をすくめるうさ吉。
「な、なんだよやってきたことって」
「あなたのやっていることは『森の掟:第153条』に抵触します。力で他者を抑圧し、利益を得ようとすることを禁ず。森に生きるものであれば自分の獲物は自分で獲らなければなりません」
「んなこと言ったって、お互い了承してるんだ。構わねえだろ、なあ?」
そう言ってカメどんの方を見た時、カメどんは鋭い眼差しでじっとうさ吉を睨んでいた。
フクロウはなおも続ける。
「それが対等な立場なら構いません。しかし今回はどうだったでしょうか? そもそも契約というのはお互いが自発的に了承出来なければ成り立ちません。そうでしょう? カメどん」
カメどんはフクロウを見上げて、力強く首を縦に振った。
「はい、僕はこの勝負はフェアではないと思います。そのアンフェアな勝負で一方が他者を搾取するのは間違っていることをここに訴えます」
キリンやゴリラ、森の動物たちがざわつき始めた。
うさ吉を見つめるフクロウの目の奥が鋭く光る。
「うさ吉さん。あなたに最後のチャンスを与えます。あなたの口から言ってください、あなたはこれからどうすべきだと思いますか?」
うさ吉は辺りを見回した。
自分の周り360度、訝しげな表情だった。
「ああ、わかったよ。もうしねえよ、こんな勝負くだらねえ。じゃあな」
そう言ってぴょんぴょん跳ねて、森の中へ消えて行った。
キツネ之介は辺りを見回してから、
「ボ、ボクは通りかかっただけだからね。ほんっとひどいと思うよ、こんな勝負。ああ、よくない、よくない!」
そう呟きながらこそこそと消えて行った。
それを見送ってからフクロウは優しく、しかし心の奥を覗き込むような眼差しをカメどんに向けた。
「これで良かったでしょうか、カメどん」
「はい、ありがとうございます」
その大きく、まん丸な瞳が、にっこりと微笑んだ。
「それにしても、あなたがあの日、私の元を訪れて来たのにはびっくりしました」
フクロウが、その日の話を始めようとしていた頃、他の森の動物たちは各々自分の住処へと散り始めていた。
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