第三者の登場

 突然そこに吊り上がった目が浮かんだ、キツネ之介である。


「なんだ、キツネ之介。今こいつに大事なこと分からせてやってるんだ、邪魔すんな」

「へえ、なになに? 決闘要項ね。ルートは海。へえ……」


 しばらくキツネ之介は要項をじっくり真顔で読み込んでいた。

 それをすがるような目で見つめるカメどん。

 するとキツネ之介はうさ吉とカメどん、両方に目をやってからこう言い放った。


「でもさ、今までは岩から山のてっぺんだったんでしょ? だったらまずそこでリベンジしないとね。それからでしょ、ルート変えるのは」


 カメどんの全身から血の気が引き、思わず甲羅にヒビが入りそうだった。

 キツネ之介の紳士ぶったその表情に恐怖さえ覚えた。


「なあ? お前もそう思うだろ? おいカメどん。だってよ、じゃあ決まりだな、勝負は明日、あの岩からだ」

 

 ——話が違うじゃないか。

 カメどんは思った。


 キツネ之介にカメどんを助けるつもりなど毛頭なかったのだ。

 一見カメどんを助けるような提案をしておきながら結局は裏切り、うさ吉に恩を売るつもりだったのだ。

 自分の手を汚さずに、利益をあげる。知恵と狡猾の化身とはよく言ったものだ。



 その時だった。

 空から何かバッサバッサという音が降り注いだ。

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