カメどんのリベンジ

 うさ吉は鼻くそをほじりながら寝ていた。


「おいうさ吉君。決闘を申し込みに来たよ」


 うさ吉は気持ちよく寝ているところをカメどんに起こされ、不機嫌になった。


「あ? 何回やっても同じなんだよ。どうしてもって言うならやってやってもいいが、もしお前が負けたら、今度は二倍働いてもらうからな」

「ああ、いいよ。その代わり僕が勝ったら、もうずっと君には従わない。いいね」


 うさ吉は心の中であざけるように笑った。


——こいつ、本当にアホだ。圧倒的に自分の利益が少ない条件で戦おうとしてやがる。


「いいだろう。じゃあ勝負は明日、あの岩の手前から……」

「いや、今回は違う。今回のルートはこれだ」


 カメどんは「うさ吉対カメどん、決闘要項」が書かれた紙を手渡した。

 それをつまんで読むうさ吉。やがて表情が怒りに変わるのが目に見えた。


「ふざけんなよ、こんな馬鹿げたルート、勝負になるはずねえだろう」


 ルートはこうだった。

 浜辺から浮島まで、海の上を300m。要項にはそれだけ書いてあった。


「うさ吉君、これは大事な戦いなんだ。ルート選びも重要だ。本当の意味で一番を決めるルートにする必要がある」

「馬鹿が! 海なんてなんもねえじゃねえか。何でそのルートが一番を決めるってんだよ」

「地球の大半は海だよ。生物もほとんど海に住んでいる。ほとんどの生物のフィールドは海だ。そこで勝負を決めるのがフェアじゃないか」

「何をごちゃごちゃと。今まで何回もやってただろうがよ、あの岩から山のてっぺんまでって。今更変えようったって……」


 こうなることも予想どおり。

 カメどんはあの日キツネ之介に言われたことを思い出していた。


『——だからカメどん、君は陸地の勝負では勝てない。だったら君に有利なフィールドに持ち込めばいいんだ。つまり海』

『海?』

『そう、海のルートだ。そうなればうさ吉に勝ち目はない。あいつ1メートルだって進めやしないよ』

『そんな条件……呑むかなあ』

『呑まないだろうね。きっと今まではこうだった、とかふざけるな、とか水掛け論になるのがオチだ。そこでボクの登場』


 キツネ之介は胸を叩いた。


『ボクがさりげなく登場し、君の味方をする。第三者の意見として君が正しいことに賛同してあげるよ。そうすればうさ吉もきっと諦めるだろうよ』

『ほんと? そこまでしてもらっていいの?』

『ああ、良いよ。気にすることない。ボクはいつだって弱いものの味方さ』


 そういってニヤリと口元をほころばせた表情をカメどんが思い出していた頃、絶妙なタイミングで聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。


「君たち、どうしたんだい? そんなに言い争って」

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