知恵と狡猾の降臨
振り返るとそこには吊り上がった目が浮かんでいた。
全身が薄茶色の羽毛に包まれて、てっぺんには尖ったフサフサ耳が揺れる。
「なんだ、キツネ之介君か」
カメどんはキツネのキツネ之介に事の顛末を話した。
「——だから僕は今、うさ吉君に負けないように必死で訓練をしているんだ。うさ吉君の跳ね方を研究して、少しでも早くゴールに辿り着けるように。おかげで少しずつタイムも伸びてきているんだ」
キツネ之介はつまんなそうに、頬から伸びるひげ——弓の弦のようなそれを指でしごいた。
「へえ、それで君。勝てると思ってるの?」
「当然だよ。やればできる、努力は報われるんだ。今は無理でもいつかきっと勝てる日が来る。そう信じてるんだ」
川でぽちゃんと魚が跳ねた。夕日はいよいよ落ちるための準備を始めていた。
キツネ之介はしばらくうつむくと、緩み一つない表情でカメどんを見た。
「なあカメどん。君は勝てないよ。うさ吉の脚を見たことがあるかい? あれは地を跳ねるためにできている。よく引き締まった、見事な脚だ。それと引き換え君はどうだ?」
「——僕かい? これでも鍛えた方なんだよ。前に比べたら……」
「そうじゃない。君の肢は跳ねるためじゃない。水をかくためにあるんじゃないか? だったら……」
キツネ之介は耳打ちをした。
それを必死に聞き入れるカメどん。
「なるほど、さすがキツネ之介君。僕、やってみるよ」
キツネ之介は一つ大きく頷いた。
「努力も良いけど、それだけじゃだめだ。この世を生き抜くには頭使わなきゃ、ア、タ、マ!」
そう言ってキツネ之介は自分の頭をつついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます