最終章

 木の陰から吊り上がった目、尖った耳が、ゆっくりと姿を現した。

 先ほどの喧騒が嘘のようにひっそりとしている。時折枝葉のこすれる音が、さあさあ鳴った。


「カメどん。あんな大勢に囲ませるなんて、君も卑劣な手を使ったもんだ」


 カメどんは思った。

 この嘘つきキツネが。堂々とカメを裏切っておいて何を——。

 思わずカメどんの肢が怒りのあまり震えだした。


「あぁ、そうだよ。何とでも言うがいい。僕の大切な友達が大事な忠告をしてくれたからね」

「忠告?」

「そう、この世を生き抜くには、アタマを使わないとってね」


 そう言ってカメどんは自分の頭を指差した。

 それを見て一瞬はっとしたキツネ之介だったが、すぐいつもの狡猾な笑みを浮かべた。


「ふん、面白い。まあボクは君に恨みがあった訳じゃないから。まあせいぜい頑張るんだね、今後も搾取されないように」


 そう捨て台詞を吐いて、キツネ之介は去って行った。



 その後、カメどんは海を自由に動ける身でありながら、陸でも移動出来るという特技を生かして、海産物を陸に届けるという得意分野を発揮することになった。

 もう陸での移動速度が遅いからといって、それを引け目に感じる事はなくなったし、それが理由で他者から搾取されることもなくなった。

 本当の意味での自分の居場所をやっと見つけたのである。


 めでたしめでたし。


(了)。

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