最終章
木の陰から吊り上がった目、尖った耳が、ゆっくりと姿を現した。
先ほどの喧騒が嘘のようにひっそりとしている。時折枝葉のこすれる音が、さあさあ鳴った。
「カメどん。あんな大勢に囲ませるなんて、君も卑劣な手を使ったもんだ」
カメどんは思った。
この嘘つきキツネが。堂々とカメを裏切っておいて何を——。
思わずカメどんの肢が怒りのあまり震えだした。
「あぁ、そうだよ。何とでも言うがいい。僕の大切な友達が大事な忠告をしてくれたからね」
「忠告?」
「そう、この世を生き抜くには、アタマを使わないとってね」
そう言ってカメどんは自分の頭を指差した。
それを見て一瞬はっとしたキツネ之介だったが、すぐいつもの狡猾な笑みを浮かべた。
「ふん、面白い。まあボクは君に恨みがあった訳じゃないから。まあせいぜい頑張るんだね、今後も搾取されないように」
そう捨て台詞を吐いて、キツネ之介は去って行った。
*
その後、カメどんは海を自由に動ける身でありながら、陸でも移動出来るという特技を生かして、海産物を陸に届けるという得意分野を発揮することになった。
もう陸での移動速度が遅いからといって、それを引け目に感じる事はなくなったし、それが理由で他者から搾取されることもなくなった。
本当の意味での自分の居場所をやっと見つけたのである。
めでたしめでたし。
(了)。
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