第11話 暗がりの倉庫の中で。

「おうおう、やっとヒーロー様の登場か?」

 大男は人影のある天井にスマホのライトで照らす。

「うわっ眩し」

 ミノルは目を背けるが、隼人の姿は無い。

「あれ、隼人?どこいったの?」

 私の背後に何かを感じたのち、手足の拘束が解かれる。

 すくっと立ち、大男から離れると、椅子の後ろに隼人が居た。

 ミノルも気付いていないみたいだが、きっとさっきの隙に降りたのだろう。

「もう、ちょっと待ってよ隼人ー」

 登場シーンは大事にしようって話をしてたじゃん、と悪態をつきながら床に降りた。

 まるで猫のようにしなやかな着地をして、大男に指をさす。

「残念だけど仲間は返してもらうよ」

 大男は突然の動きに呆気に取られていたが、すぐに表情を君の悪い笑みに戻した。

「それだけ、大口叩いてるけどさ、ここから生きて帰れると思ってんのか?」

「それはこっちの台詞だねって言いたいよ」

 廃墟とはいえ、ここは元々私有倉庫だ。こんな所で不法占拠してんのは良くないな、とミノルは吐き捨てるように言う。


 それが、彼の琴線に触れてしまったみたいだ。

 青筋を浮かび上がらせて、ミノルを睨みつける。

「うるせぇな、俺たちだってこんな所に居たくて居るわけじゃねぇんだよ!」

 どんだけ俺たちが酷い目にあってんのか知らねぇのか!?と半分叫び声のような言葉で答える。

「俺たちはこの生まれついた『障害』のせいで、受験も就職も差別されてよぉ!こんなボロボロの生活をするしかねぇんだよ!」

 この男の言う『障害』はおそらく魔法のことだろう。

 障害という言葉は、魔法使いの特有能力について、蔑称として使われる時もある。

 魔法使いの魔法はコントロールできる便利な物もあれば、当然暴走して本人の意思と関係なく他人を傷つけるものもある。

 前者の場合であっても、犯罪に使われることも多いので、魔法使いは社会的に不良のようなレッテルになっているのだ。

 非合法とはいえ、魔法使いを差別する学校や企業も少なくないだろう。

「俺たちは人間が大っ嫌いなんだ、他人の苦労も知ろうとせずにやれ犯罪者予備軍や、劣等遺伝子やら好き放題いいやがって!」

「それについては心中察するよ」

 ミノルは目を閉じて詫びるような仕草をする。

 だが、その態度は火に油を注ぐようだった。

「お前が何を分かってるって言うんだ!人間の癖に魔法使いの味方だとか言い張って!」

「僕は本当にみんなを助けたいんだ」

「黙ってろ!お前の噂は聞いてんだよ!普通の人間に魔法を使えるようにしたり、魔法使いに差別を消すとか言って、自分の都合の良い手下を作りたいだけだろ!」


 この魔法使い'使い'が!!


 溜まっていた鬱憤を晴らすように吐き出した言葉は倉庫の中を容赦なく響かせる。

「……」

 即座に反論もできず、ミノルは口を閉じる。

 がしかし、もう一人の口が開いた。

「確かに俺たち魔法使いが差別されてきたのは事実だ。でも、それをお前らはそのまま諦めて屈服し続けるのかよ」

 変革ない種族は何時だって劣等だろうよ、と隼人は言う。

「分かったような口を聞くんじゃねぇ」

「俺だって先天性組の魔法使いだ」

 実際にろくに学校だって通ってねぇよ、と彼は続ける。

「でも、黙ってこのまま落ちぶれるより、俺は戦う事を選んだ」

 こいつの世界征服という野望に乗ることにしたんだ。


「で、お前は何がしたいんだ。まさか、俺たちの足止めだけが目的じゃねぇよな」

 俯いた男は、やがて面を上げた。

 その顔は怒りと恥で赤く染まっていた。

「うるっせぇええ!俺は俺が正しいって思う事をやるんだよ!」

 その号哭を聞いたミノルは不敵に笑った。

「いいだろう、それでこそ魔法使いだ」

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魔法使い使いは世界征服の夢を見るか? 汐崎晴人 @thekey3

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