私と猫と

彩 ともや

私と猫と

私は猫を飼っていた。

白い毛の、雄猫だ。

名前はモカ。

モカはいたずら好きで、カーペットや、布団の上でトイレをすませる時があった。

ある日、母がモカを捨てると言った。

「そうだね。」

私はそう答えた。

捨てる前日、私はモカを抱きしめ

「お前が悪いんだからね。」

と言った。

何も知らない純粋で、無垢で、馬鹿で憐れな白猫は、布団の上で丸まったまま眠っていた。

私はさらに力を込めて抱きしめた。

なんだか胸が苦しかった。

モカは寝るのを邪魔されるのが嫌らしく、小さく鳴いて体を縮めた。

その姿も、愛らしいのに、見るのが辛かった。


その翌日。

予定通りにモカは車に乗せられた。

私はモカを乗せた車が家から離れていくのをただただ見ていた。


帰ってきた母は、笑っていた。

いつもと同じ笑顔だった。

私は、なんだかもやもやとした、変な気持ちになった。



二週間後。

モカが家に帰ってきた。

…そんな夢を見た。

起きたら虚無感が胸に広がって、正夢になることを願った。

そんな都合の良い自分に嫌気がさす。



一ヶ月後。

道路で猫が死んでいた。

黒猫だった。

モカじゃないことに安心しながら、どこか罪悪感に襲われた。


二ヶ月後。

道路で猫が死んでいた。

モカだった。

白い毛が、茶色くなっていた。

しかし、それを見たのは走る車内からで、運転する母は車を止めはしなかった。

「さっきの、モカだった?」

「…さあ?よく見えなかった。」

私はモカだったと確信しながらも、ごまかした。

モカじゃなければ良いのに。

無責任なことを思った。


その、翌日。

モカはいなかった。

誰かが片付けてくれていた。

私は泣きたい気持ちになった。

でも、母の手前、それは出来なかった。



夜、一筋だけ、涙を流した。

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私と猫と 彩 ともや @cocomonaca

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