エピソード1 七章(透と紅牙) 通算28話
陣羽織桃子や雉丸トリノの影に隠れがちであるが、猿渡透の持つポテンシャルもなかなか侮れないものがあった。
透は両親の離婚というイベント時に、女子高から吉備津学園に転入してきた。
離婚はきっかけに過ぎず、理由は女子高では百合のトリノに追い回され居心地が悪かったのと、健一が居る学校へ行きたかったからだ。
トリノの手から逃れたと思ったのもつかの間、結局追いかけて編入してくるという非常識ぶりを見せられ、その辺はもう諦めていた。
決定的だったのは、トリノが桃子の親戚だと聞いた時で、これはもう逃げられないなと感じた。
透は中学時代に柔道をやっており、全国大会の出場経験があった。
惜しくも一回戦で敗れたものの、その熱戦はすさまじく、互いに譲らず最後は判定にもつれ込んで、惜しくも僅差で負けてしまった。
その後、透に勝った選手は、残り試合をオール一本で勝ち進み優勝した。
試合後のインタビューでは一回戦が事実上の決勝戦のようなものだったと述べ、透との再戦を楽しみにしているとまで語ったほどだ。
その選手は高校進学後、オリンピックの強化選手に選ばれている。
そのような選手と互角に戦った透の体力や瞬発力は、ある意味桃子も凌駕しているかもしれない。
とはいえ所詮は人間の女の子だ。筋力も体力も、身体を鍛えた男性には敵いはしない。
足も速く、大きな胸が抵抗にならなければ、健一よりも早いかもしれない。
透が走ると、ロリコン以外の男は全員振り返るであろう。
それくらいゆさゆさと上下左右に揺れるのだ。
下手をすると、吉備津学園で一番胸が大きいかもしれない。
グラビアでしか見たことが無い巨乳が、生で見れるというので、吉備津学園の男子生徒の中では隠れファンが多かった。
容姿も可愛らしく、常識人で恥じらいを持っていたので、桃子らとつるんでさえなければと惜しむ声が学園内によく響いていた。
性格が真面目というか普通に一般常識を持ち合わせてるが故、桃子やトリノに振り回され、没個性と化しているが、健一とのつながりは透が一番強くて長かった。
ちょうど、紅牙と瑠璃の関係に似ているところがあった。
とある休日の午前中。
透は柔道をやめてからも習慣になっている早朝のジョギングを行っていた。
たまには違ったコースを走ってみようと、川沿いのコースへと向かった。
しばらく走っていると、河川敷の方からドスンという鈍い音が聞こえてきたので、何事かと堤防を下りて河川敷へと向かってみた。
電車の高架の下では、巨大な岩を両足にはさんだ状態で逆立ちし、その姿勢で腕立て伏せをしている紅牙の姿を見付けた。
鬼だから仕方ないのかもしれないが、人間離れも甚だしかった。
これは人間じゃ勝てないな。と、トレーニングの内容を見ただけで白旗を上げるしかなかった。
「おはようございます。紅牙さん」
「ん?」
逆さまだったので、顔を見ても一瞬誰だか分からなかった。
というか下から見上げる形になるので、胸が邪魔で顔がよく見えない。
胸が大きな女性の知り合いということで、紅牙はすぐに透だと思い出した。
実に失礼な覚え方である。
「確か、猿渡とか言ったっけ?」
「猿渡透です。紅牙さんはトレーニングですか?」
「ああ。定期的に身体動かさないとモヤモヤするんだ」
「アハハ、それってヤバくないですか?」
「ああ。冗談抜きでヤバいぞ。ある程度定期的に力を発散しないと力の加減が難しくなる。そうなると健一みたいに骨折程度じゃ済まなくなる」
「へぇ。そうなんですか。大変ですね」
「そういうお前は何やってんだ?」
「あたしもトレーニングというか習慣でジョギングを少々」
「おまえんちって健一の隣って話だよな? あそこからここまで五~六キロはあるじゃねえか。少々ってレベルか?」
「大したことないですよ。いつも往復で一五キロは走ってるから平気です」
「なかなかやるじゃねえか」
「紅牙さんこそ。凄いですねそれ。岩を落としたりして怪我とかしないんですか?」
「落としたことはある。怪我もある。だが死ぬほどの怪我じゃないから気にしてないな」
「大雑把なんですね」
「まあな。赤鬼だからな」
紅牙は逆立ちした姿勢のまま、透としばし雑談を交わした。
紅牙がちょっとどいてくれと言って、足に挟んだ大岩をゆっくりと降ろし、両足をついてちゃんと立つ。
透は紅牙が持っていた大岩を押したり引いたり持ち上げようとしたりしたが、ビクともしない。
「んぎぃぃぃ~~~! くひぃぃ~~!」
「無理だ。やめとけ」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、こ、こんなの、人間に、持ち上げられっこないですよ」
「まあそうだろうな。だがユンボとか重機を使えば余裕だろ。指先の操作だけで、この程度の岩なんて移動可能だ。俺の力なんてその程度だ。陣羽織が言ってた通り、いまの時代で脅威なのは俺じゃなく、瑠璃が持ってる知識とその活かし方なんかだろうな」
「瑠璃ちゃんの“力”ねぇ。そうだ紅牙さん」
「なんだ?」
「ちょっと相談があるんですけど、これからちょいと付き合ってもらえませんか?」
「俺は構わないが、陣羽織とか健一とかはいいのか?」
「ん? 桃子さんを呼んで欲しいんですか?」
「バカッ! ちげぇよ」
「あはは、なら行きましょうよ」
透は紅牙についてくるよう促しながら、走り始めた。
人気のない公園のベンチに紅牙はポツンと座っていた。
「お待たせしました。はいどーぞ」
透が自販機で買ってきたスポーツ飲料を紅牙に渡し、ベンチの隣に座る。
「悪いな」
紅牙はスポーツ飲料を受け取り、お金を払おうとすると、相談料だからいいよと受け取りを拒否された。
「紅牙さんに相談があるっていうか、質問なんだけど」
「言ってみな。答えられることならなんでも話すぞ」
「うん。幼馴染みについての見解を少し聞きたいんだけど」
「見解って言われてもな。もう少し具体的に言ってくれ。知っての通り、俺は頭が良くない。というかかなりのバカだ」
「はい。それは知ってます。それで、紅牙さんと瑠璃ちゃんは幼馴染みなんですよね?」
「そうだな。物心がついた頃にはもう一緒に居たな」
「瑠璃ちゃんのことはどう思ってますか?」
「睦月といいオマエといい、同じようなことを聞くんだな。そうだな。瑠璃は大切な家族というか、妹みたいなもんだ」
「妹……ですか。でも瑠璃ちゃんが大きくなって、紅牙さんと結婚したいって言ったらどうします?」
「瑠璃と俺が結婚?」
ものすごく意外そうな顔をして紅牙がオウム返しに聞き返す。
「はい。可能性としてありますか?」
「いや、普通に無いだろ」
あっさりと否定する紅牙。これでは瑠璃の立つ瀬が無い。というか可哀想過ぎる。
「どうして無いんですかっ!」
透の驚きように釣られ、紅牙も少しばかり驚いてしまった。
「ど、どうしたいきなり?」
「紅牙さん。その結婚が無いという理由を詳しく教えてくださいっ!」
真剣な表情で透が食い下がるので、紅牙は無い知恵を振り絞って真摯に考え、なんとか答えを見出した。
「うーん。まあ理由の一つとしては家柄だな。俺は赤鬼族首魁の息子で、瑠璃は青鬼族首魁の娘だ。それぞれの立場ってものがある」
「ああ、そういう理由が一応あるんですね。でもどうしても結婚したい。出来なければ死ぬとかって熱愛しちゃった場合でも駄目なんですか?」
「そこまで厳格じゃねーから。そういう場合はいいんじゃね? まあ瑠璃にそんな気があるとは思えないけどな。ハハハ」
透は無意識のうちに手に持ったペットボトルで紅牙の頭を叩いていた。
「んっ! なんだ? 虫でも止まってたか?」
まるで薪を割るかのように綺麗なフォームでスコンと落としたが、紅牙へのダメージは極めて軽微らしい。
「虫というか無神経なのが一匹」
「どういうことだ?」
これは鈍いというレベルでは無いぞ。
透は瑠璃の境遇を、不遇な幼馴染みという同族意識から、心より可哀想だと思った。
現時点で透が把握している恋愛相関図で一番複雑なのが『瑠璃→紅牙→桃子→健一→瑠璃?』であり、健一が瑠璃を好きだというのは、なんとなく嘘臭いのでループは無しで、本命は居ないと思っていいだろう。
次に『トリノ→透→健一』と『睦月→健一』と続く。
健一を廻る透のライバルは、桃子と睦月ということになる。
数か月前ならともかく、今ではどちらも侮りがたい相手となった。
健一の桃子に対する態度は、始めは関わりたくないというものであったが、最近はかなり慣れてきている。
桃子の言動にも行動にもある程度対応できるようになっている。
ただしそれで桃子のことを健一が好きになるかと言えば違うだろう。
そうなるまでには、まだまだ道のりは長く、今でもまだ迷惑だと思っていることの方が多いだろう。
とは言え桃子は健一とキスをしている。
偶然見かけたことがあったのだが、健一の態度から、それが初めてではないことが伺われ、透は少なからずショックを受けていた。
このままではどんどん引き離されてしまう。
この状況を打破するためには名参謀が必要であると透は考えた。
真っ先にトリノが浮かんだが、トリノが透と健一の仲を取り持つような行動をするわけが無かったので却下である。桃子や睦月はライバルであり当事者だ。
となると頼りになりそうな人物は一人しかいなかった。
「紅牙さん」
「なんだ?」
「瑠璃ちゃんは今日、どこにいますか?」
透は瑠璃と本気で幼馴染み同盟を結ぼうと決意した。
瑠璃の休日の過ごし方は、部屋に籠ってネットゲーム三昧らしい。
トリノみたいだなと、透は瑠璃がゲームに興じている姿を想像し、微笑んだ。
紅牙に案内され、部屋の前までくると、幾つか注意事項を言い渡された。
その中でも最重要事項なのが、瑠璃の角や髪の毛に触れてはいけないということだった。
過去に悪戯で髪の毛を引っ張られた瑠璃は、その相手に精神的にじわりとくる報復を行い、ノイローゼにしてしまった過去を持つらしい。
また触れられた髪の毛をばっさりと切ってしまったという。
それくらい他人に髪を触れられるのが嫌らしい。
あと、驚かすと爪で引っ掻かれるので、気付くまで何度も声をかけることと言われた。
猫に引っ掻かれるよりも痛いらしく、女性の柔肌で瑠璃に引っ掻かれたら、下手をすると一生傷が残るかもしれないと脅された。
まるで神経質な猛獣だなと、透は笑みを漏らした。
とりあえずの礼儀として、外から何度か声をかけたが、ヘッドフォンで耳を塞いでいるのか集中しているのか、返事は無い。
ただ、中にいることだけは気配で分かった。
「そんなわけだから、さっきの注意事項にだけ気をつければ多分大丈夫だから勝手に入っていいぜ」
「わかった。紅牙さんありがとう」
「いいってことよ。それより瑠璃と仲良くしてやってくれよな。睦月くらいしか友達いないから、猿渡が友達になってくれると助かる」
「なれるかどうかわからないけど、頑張るよ」
透はそう言うと、一応ノックした上で、ドアノブを捻って瑠璃の部屋に侵入した。
万が一ということもあったので、何かあったらすぐに紅牙が駆け付けられるよう、ドアは開けっぱなしにしてある。
ドアを開けた時に、すでにパソコンの前に腰掛け、マウスとキーボードを目にも止まらぬ速さで器用に動かしている瑠璃の姿を確認できた。
かなり熱中しているようで、透が進入したことにまるで気付いていない。
後ろを振り返ると、紅牙が親指を立てて頑張れみたいなジェスチャーを送ってくるので、透は仕方なくそのまま瑠璃の背後に回った。
髪の毛と角だけは触ってはいけない。髪の毛と角だけは触ってはいけない。
そう呪文のように唱えながら、ゆっくりと瑠璃の真横にまで近付いて、ギリギリ視野内に入るのではないかという位置に立つが、瑠璃の赤い瞳はモニタの中に吸い込まれており、視界の端に居る透の姿は、見えていても置物と同じ扱いになっているようだ。
ふう。と透はため息をつき、大きく二~三度深呼吸をした後、瑠璃に声をかける。
「瑠璃ちゃんっ!」
だが反応は無い。
ヘッドフォンから音漏れをするくらい大きな音で楽しんでいるので、透の声など聞けるわけが無かった。
それにしても……。
透が興味深げにパソコンの画面を覗くと、そこには赤褐色のマッチョな戦士が鉄のこん棒みたいなものを振り回し、敵をなぎ倒していた。
恐らく瑠璃のプレイするキャラなのだろう。
その姿は紅牙をもっと凶暴にしたような印象を抱かせる。
実際キャラエディットの際、瑠璃は紅牙をイメージしたキャラを作成したので似ているのは当然だった。
もっとこう妖精チックなカワイイキャラの方が似合うだろうにと透は思ったが、ゲーム内くらいでは強い存在になりたいのかなと思い、益々不憫に思ってしまった。
透は無意識のうちに瑠璃の手首を掴んでいた。
「にゃっ!」
素っ頓狂な声を発し、全身の毛が総毛立った猫のように全身をこわばらせ、瑠璃は透を凝視していた。
「ハハハ、こんにちは~」
「んにゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」
瑠璃は椅子から飛び上がり透と距離を取ろうとするが、手首を掴まれていたので、一旦は空中にふわりと浮いたものの、また椅子の上にすとんと立つことになってしまう。
「あ、ごめんごめん」
透は慌てて手を放す。
そこへ瑠璃の猫フックが一線する。
あと一瞬、手を引くのが遅れていたら、透の手の甲に一生消えない傷跡が刻まれていたかもしれない。
「にゃにゃにゃっ、にゃんで、なんで? どうしているの? なんで?」
瑠璃はかなりパニくっているようだ。
知ってる顔とはいえ、それほど親しくない人物が、招待も無くいきなり部屋に居るのだ。
パニックにならない方がおかしい。
「ごめんね。何度もノックしたんだけど」
「そ、そうじゃなくて、なんで? なんでお姉ちゃんいるの?」
「あのね。あたしが瑠璃ちゃんに会いたかったから来たの。駄目かな?」
「駄目って言うか、ルリはお姉ちゃんのことよく知らないし、いきなりこられてもよくわからないよ」
「うんそうだね。本当にごめん。でもこうでもしないと会ってくれない気がしたんだよね」
「だって、会う必要はなくって、訳ががわかんないよ」
パニくって、意味不明で、瑠璃は泣きそうな顔で、いや実際少しベソをかいていた。
「とりあえず少し落ち着こう。ね? お菓子食べる?」
透はここに来る途中で買った、瑠璃が好物だという一口サイズのチョコの袋を開封して差し出した。
「……食べる」
瑠璃は恐る恐るチョコの袋に手を忍ばせ、包装紙を剥いてからチョコを口に運ぶ。
「おいしぃ」
「よかった。少しは落ち着いてくれた?」
瑠璃は返事の代わりに小さく頷く。
「桃子さんとトリノの影に隠れて記憶に残ってないかもしれないけど、あたしは……」
「ルリ知ってるよ。猿渡透さん。五月六日生まれ、一六歳。吉備津学園特進クラス、元は一年C組で、中学時代は柔道をやってて全国大会に出場した実績もあるんだよね」
「す、すごいね。よく知ってるね」
「調べればすく分かるから」
「わざわざ調べてくれてありがとう」
「お姉ちゃんは敵の仲間だから調べただけで、別に感謝されるようなことじゃないよ」
「いやいや、あたしみたいな雑魚のことまでちゃんと調べてくれたことが嬉しくって」
「お姉ちゃんは雑魚なんかじゃないよ」
瑠璃の視線は透の胸をじっと見据えていた。
「えっと……」
同性とはいえ、じーっと胸を凝視されるのは少し恥ずかしかった。
「ルリの本当の歳が一四歳だって、お姉ちゃんは知ってる?」
「あ、うん。紅牙さんと睦月さんと同じ学年にするため、二歳サバ呼んでるっていうのは聞いたよ。だから瑠璃ちゃんって呼ばせてもらってるんだけど」
「うんそうだよ。それで、ルリとお姉ちゃんの歳の差は一つなんですよね?」
「う、うん。正確には一年と数ヶ月間、あたしが年上みたいだけど」
「お姉ちゃんの胸、そろそろFカップだとキツいんじゃないですか?」
「ど、どうしてそれを!」
日増しに成長する透の胸は、年単位で現在のカップ数ではキツくなるほど育っていた。
「ルリはブラジャーを必要としないんですが、どうしてだと思いますか?」
「さ、さあ? 牛乳を余り飲まなかった……とか?」
「正解です。ルリは牛乳が苦手だから胸が育たなかったんです」
「そ、そうなんだ。胸は小さい方がよかったの?」
その問いに、瑠璃は大きく首を振る。
「瑠璃ちゃんはまだ一四歳だから、これから大きくなるわよ」
「お姉ちゃんはいつからブラを付けてましたか?」
「え、えっと、あたしは小五の頃に胸が膨らんできて、先生からブラ付けてこいって言われてそれからかな」
「つまり一一歳くらいから付けてたんですね」
「でも他にも付けてる子は居たよ」
「先生に付けてこいと言われたってことは、既にBカップ以上あったということですよね?」
鋭いなと透は瑠璃の洞察力に舌を巻いた。
「う、うん。そうだったかも」
「小五でBカップ、一年ごとに一つカップ数が上がって、中三でFカップですか。そうして高校生になり、Fカップもキツくなったんですね」
まるで透の成長を見守ってきた母親のように、瑠璃は正解を言い当てる。
「うん。まあその通りなんだけど、嫌味に聞こえるだろうけど、これ以上はもう大きくなって欲しくないの。バランス悪いし肩はこるし」
透が柔道をやめたのも、この胸が原因であった。
試合の度にスポーツ記者や相手校が、偵察目的という名目で、透の胸を激写したりしていたのだ。
自分の試合の時だけ、ビデオカメラや写真のシャッター音がパシャパシャと鳴り響くので、嫌気がさした透は惜しむコーチらの説得を振り切り、柔道から足を洗った。
瑠璃の瞳は人の感情の機微を読める。
透の表情から嫌なことを思い出している事が分かると、皮肉を言うのはこれ以上やめようという気になった。
「用事……」
「え?」
「ルリに用事があるんだよね?」
「あ、うん」
瑠璃はうまく話題を変え、本題に入って貰った。
とはいえ、話の内容は瑠璃が予想していたものと変りは無かった。
透が部屋に入ってきた瞬間は驚いたものの、彼女がなぜ自分を訪ねてきたのか、その理由はすぐに分かった。
だから用事を聞くまでも無かったのだが、それでも一応本人の口から聞いて、吟味する必要があった。
透の話を要約すると、同じ境遇の幼馴染み同士で同盟を結ばないかというものだった。
どうすれば幼馴染みが報われるか検討し、それを実践する会というわけだ。
同盟と言っても情報交換を行って、行動に干渉して欲しくない場合は静観してもらうなど、情報不足によって、互いの足を引っ張る結果にならないよう相互理解を深めるというものであった。
もちろん協力して欲しいことなどは、出来る範囲で応じるという形で同盟は成立した。
「ところで同盟を結ぼうってお願いしておきながら、こんなことを尋ねるのもおかしいと思うんだけど……」
透が回りくどい言い方をしていると。
「睦月お姉ちゃんの事なら気にしなくていいよ」
と、瑠璃は透が言いたいことを先回りして答えた。
やっぱり凄い子だと、改めて透は瑠璃の洞察力に感服し、息を飲んだ。
「えっと。気にしないでいいって、どういうこと?」
「んと。逆に尋ねるけど、お姉ちゃんに他人の心配をする余裕はあるの?」
「っ! ……ないです。はい」
確かに瑠璃の言う通り、透はライバルに気を遣う余裕など無かった。
「お姉ちゃんは魅力的な身体をしてるのに、それを武器にしないのはどうしてなの?」
「ど、どうしてって、あたしはまだ一六歳だし、そういうのはもう少し大人になってからでいいかなって」
「一六歳でも結婚できるよ? それにモタモタしてると健一お兄ちゃんを陣羽織お姉さんに取られるよ? ルリとしてはその方が助かるからいいけど。お姉ちゃんはいいの?」
「それは駄目!」
「待ってるだけじゃ、何も手に入らないよ」
「そ、そうだね」
年下の少女である瑠璃の達観した態度に、透はただただ冷や汗を流すしかない。
その後、瑠璃は透に色々とアドバイスを行った。
健一と腕を組んで歩いた際に、胸を押し付けたり、朝の挨拶時には背中に飛び乗って胸を押し付けたりした方がいいと力説した。
そうすれば透が幼馴染みではなく、一人の女性なのだと健一にアピールできるだろう。
それは、瑠璃がやりたくとも出来ない行為であり、実践できる透が羨ましかった。
そのことも透に告げ、だから絶対に実践することと念を押し、約束させた。
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