第20話
公園に向かう散歩道で、どこかで見かけた三人組が歩いてくる。
その三人組とは桃子が鬼が取り憑いてるとか言いがかりをつけ、背後から木刀で襲いかっかったチンピラたちだった。
丁度お互い相手の存在に気付いたらしい。
桃子に気付いたチンピラ達は、蛇に睨まれた蛙のように、その場で静止し息をひそめた。
視線を反らし冷や汗を垂らして嵐が過ぎるのをじっと待つ三人組。
だが、桃子の視界にもチンピラ達は入っているはずなのに、まるで存在しないかのようにチンピラ達を素通りする。
隣に歩いていた健一の方が、よほどチンピラ達を意識していた。
彼らとすれ違った後、振り返ってみると、チンビラ達と目が合ってしまい、お互いなんとも言えない苦笑いを洩らす。
そうして言葉は発しないものの、相変わらず大変そうだなという同情とも憐れみとも言える表情で健一を見送っていた。
「桃子は気付いてたの?」
「もちろんよ。でもあの人たちにはもう邪気はなかったわ。だから見逃してあげたの」
「なるほどね」
「そうよ。あんな小物に構っているほど暇じゃないのよ」
学校の授業中に公園へ散歩にゆく人物にそんなことは言われたくないだろうなと健一は思ったが、そのことを口にしても桃子の機嫌を損ねるだけなので黙っていた。
「意外と人がいるのね」
「ああ、というか赤ちゃん連れが多いな」
午前中の公園は、子供連れのママたちで溢れていた。
だれそれの旦那の年収とかランチの値段とか、どうでもいいことでマウントを取りあってるのが健一たちの耳にも聞こえてきた。
どうやらここはママたちの社交場であり戦場でもあるらしい。
場違いなのは健一たちで、どう考えても学校さぽって校外をうろついてるとしか思えないのでママたちに不審がられていた。
実際その通りなのだから健一はとても居心地が悪かった。
この状況を打破したのは桃子で、一人のママに歩み寄り、学校の校外調査で、時間帯別の公園利用者を調べているとか適当なことをでっちあげ、幾つか質問していた。
数人のママたちに声をかけ、質問を繰り返してきた桃子が戻ってくる。
「どうやらこの時間帯は彼女たちのホームみたいだわ。とんだアウェイに来てしまったわね。どうするの健一くん」
「どうするのって、他の場所に行くか学校に帰るしかないんじゃない?」
「そうね。さすがにこう人が多くてはなにもできなさそうだし」
「なにかする気だったのかよ」
「でも小さな子供ならなにをやっているのか分からないかもしれないわね」
「いやママに見つかったら通報される。とりあえず場所を変えよう」
「そうね」
結局二人は、いつもの喫茶店に向かっていた。
喫茶店に入ると、先客がいた。
この前とは逆パターンだなと健一は苦笑したが、桃子は苦虫を噛み潰したような表情をしている。
「ほらね。やっぱり来ただろ?」
「ホントだ。どうしてわかったの?」
「そりゃボクのプロファイリルにかかれば、トーコやケンイチの向かう場所なんて容易に予想がつくよ」
ケラケラと笑うトリノと感心する透。
「ここは空気が悪いわ。健一くん。他の店に行きましょう」
「いや、別の店に行っても付いてくると思うぞ」
「ケンイチの言う通りだね。ボクたちも偶然同じ場所に向かうことになるよ」
「ストーキングは犯罪なのを知らないのかしら」
「トーコがそれを言うのかい? ケンイチに対する度重なるストーキング行為に比べたらカワイイものだと思うよ」
「ああ言えばこう言う。仕方ないわね」
桃子は諦めたのか、トリノたちの席にはつかず、カウンター席に腰掛け、隣の椅子をバンバンと叩く。
健一は仕方なくそこに座ると、店主がいつものブレンドを差し出してくれた。
「ありがとうございます」
返事はなく、ただうなずく店主。そうして桃子にはエスプレッソを差し出す。
「頂きます」
いつものように、桃子は一口で飲み干す。
奥の席では「こっちに来い」とかトリノと透が騒いでいる。
健一はブレンドコーヒーをすすりながら陽気に騒ぐ女の子たちを眺め、こんな学生生活も悪くはないなと思いをはせた。
プロローグ完
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ここまで読んで下さりありがとうございます。
プロローグ完とあるように ここまでが物語の前日譚となります。
次回からようやく本編です。
登場人物がちょっと増え、しばらくの間主人公出番なしです。
でもすぐにでてきます。
それではまた!
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