第19話
例の自爆発言以降、少しだけ桃子の態度に変化が生じていた。
ほんの少しだが、健一に対して寛容な態度を見せる瞬間があったりした。
それは本当に微々たる変化であり、鈍い健一にはとてもじゃないが気付けない変化であった。
この微細な変化に気付いたのは、トリノくらいであり、透に至っては、トリノに教えて貰ってもなお、その変化には気付けなかった。
ちなみにこのことは健一はもちろん、当の桃子には伝えてない。
「ケンイチは週に何回くらいヌイてるの?」
勉強を教わってる合間、何気ないひとときにトリノがそう尋ねる。
「…………」
健一は黙って筆を動かしていた。
「あ、聞き方が悪かったね。一日何回マスターベーション、すなわちオナニーしてるんだい?」
健一の腕が止まった。
トリノの逆セクハラに慣れてきたとはいえ、思春期に毛が生えた程度の健一にとって性についてのあれこれを異性とするのにはまだまだ抵抗があった。
「それを聞いてどうするんですか?」
「いや、どうせ無駄打ちするなら、トーコにぶち込んであげればいいのにと思っただけだよ」
「怖い事言わないでくださいよ」
「あのさケンイチ」
「なんですか?」
「珍しく真面目な質問なんだけど、ケンイチはトーコが嫌いなのかい?」
「出会ったころは嫌いでしたね。というか正体不明のものって怖いじゃないですか」
「いまはどうなんだい?」
「なんとか慣れてきたってところですかね」
「じゃあどうしてブチこまないのさ?」
「だから前に言ったように、男の意地ですよ。卒業するまでは絶対に桃子の色香に惑わされないって誓ったんです」
「なんだよそれ。意味がわからないよ。ホントバカだね~」
「馬鹿で結構です」
「でもさ、トーコと同棲しててよくオナニーとか出来るね? 見られてるとかそういうこと考えたこと無いの?」
「見られてんですかね?」
「知らないよ。トーコに聞きなよ」
「聞けるわけないでしょ」
「じゃあボクが聞いてあげるよ」
「やめてくださいよ」
「ひょっとして怖いのかい?」
「そりゃ怖いですよ」
「じゃあさ、ボクがケンイチの筆おろしの相手になってあげるよ」
「トリノ姉さんが?」
「そうだよ」
「でもトリノ姉さんは百合というか女の子しか興味無いんじゃ?」
「そうなんだけどね。ケンイチは特別だよ。ちなみにボクのオナニーのオカズは透ちゃんがメインなんだけど、たまにケンイチに凌辱されるってシチュでやったりするよ」
「そんな情報聞きたくありませんでしたよ」
健一は頭を抱えて深いため息を漏らす。
「そうかい? 名誉なことだと誇ってくれていいんだけどな。この細い体をロープで吊るし上げて、身動きが出来なくなったボクに言葉責めでケンイチが苛めてるんだ。するとボクの身体の芯が熱くなって、下着が濡れてくると、今度はそれをケンイチが目ざとく見つけてなじるんだ。本当にねちっこくてスケベなんだよケンイチは」
「それはトリノ姉さんの空想上のオレでしょう」
「まあまあ、それでぐしょぐしょに濡れた下着を剥ぎ取って、乱暴に秘部に指を突っ込むんだよ。爪が痛いよって叫んでもケンイチは許してくれないんだ」
「姉さん。トリノ姉さん。もういいです。聞いてるこっちが恥ずかしいです」
「ここまで聞いたんだから最後まで付き合いなよ」
「はぁ」
「そうしてケンイチはボクの背後に回って後ろから突き立てるんだ。身長差によってボクの両脚は浮いてて、両手が縛られてるから体重が全部手首に集中してるから痛くて解いてよって訴えるんだけど、ケンイチは聞く耳をもたなくて、一心不乱に腰を振ってるんだよ。そのうちボクも気持ち良くなって、二人同時に果てるんだ。どうかな?」
感想を求められても困る質問だったが、ここませ赤裸々に語ってくれたので、健一はちゃんと返事をしないといけないなという、妙な心境に陥っていた。
「その、なんというか姉さんの妄想内でのオレって酷い鬼畜じゃないですか」
「そんなもんだよ。本当のレイプは嫌だけど、妄想内ではなぜかOKなんだよね。どうしてかな?」
「まあ確かに、オレも想像だったら、そういうこと考えることもありますけど」
「ふーん。透とかオカズにしたりする?」
「まあしないと言えば嘘になりますね」
「ボクはどう?」
「トリノ姉さんが勝手に言った事ととはいえ、あれだけ盛大に暴露させておいて、オレだけダンマリってのはフェアじゃない気がするから言いますけど、確かに姉さんをオカズにしたことはありますよ」
「それじゃトーコは?」
「もちろんあるにきまってるじゃないですか。つか一番多いですよ。だってそうなるでしょ仕方ないでしょ」
「落ち着きなよケンイチ。そこまで力説しなくても分かるよ。ふーん。それにしてもケンイチは節操が無いね。ボクたち全員をおかずにするなんて」
「そりゃ実際にやったらマズイでしょうけど、想像の中くらい自由にさせてくださいよ。トリノ姉さんだってオレを使ってるじゃいですか」
「うん。もちろんボクは平気だよ。むしろジャンジャン使って欲しいくらいだよ」
「それはどうも」
「でも後ろの二人はどうなんだろうねぇ」
「えっ! 後ろ? 後ろに誰かいるんですか?」
「うん。後ろ。なんかさっきからずっと聞き耳立ててるんだよ。なんて言うの、耳年増ってやつ?」
「後ろに誰か……」
健一は恐る恐る振り返ると、そこには顔を紅潮させた桃子と透が立っていた。
「け、健ちゃんってあたしをオカズにしちゃうんだ……」
消え入りそうな声で透が呟く。
「妄想の私で果てるくらいなら、実物を相手にしたらどうなの? それに透さんは仕方ないとして、雉丸さんにまで欲情するってどういうことかしら? ロリコンなの? だから私には手をださなかったの?」
「色々と言いたいことは山ほどあるけど、とりあえず盗み聞きしといてその言い草はないだろ!」
「あら、知りたいなら教えてあげるわ。健一くんから女の子もマスターベーションをするって聞いて、私なりに調べて実践してみたわ。そうして私のオカズは健一くんだけよ。他の男には指一本触れさせてないわ。透さんもそうよね?」
「えっ、あたし? あたしはその……内緒だよ。言えないよそんなこと」
半ベソをかきながら許しを請う透。それが正しい反応だよなと健一は思いながらも、透の答えを少しだけ期待していた。
「健一くん。貴方いま、とても卑しい顔をしているわ。少しお仕置きが必要かもしれないわね」
「透ちゃんの恥ずかしがる顔を見て興奮するなんて、ボクと一緒だね。とんだ変態だよケンイチは」
「雉丸さん。貴方には言われなき中傷で傷付いた透さんの心のケアをお願いできますか?」
「まっかせといてよ。そういうの大得意だよ」
「私は健一くんに話があります。ついてきなさい」
「え? マジで?」
「早くしなさい!」
「はいっ!」
健一は慌てて桃子のあとに続いた。
「これでよし」
健一と桃子は屋上にやってきていた。
これでよしとは、桃子が屋上の扉を外から開けられないように細工したときの台詞だった。
「さて健一くん。色々と話して貰いましょうか?」
「話すってなにをだよ」
「オカズの話よ。空想上とはいえとても興味があるわ。ねえ健一くん。具体的にどうやって私を犯すの? 教えてちょうだい」
「いや、それはちょっと。オレも桃子も恥ずかしいだろ?」
「言わないとこの場で健一くんを無理矢理犯すわよ?」
目が本気だった。
桃子なら健一の自由を奪い、逆レイプすることなど朝飯前だろう。
いままでそうしなかったのは、桃子なりの矜持があったからである。
それは健一の意地と似たようなものであった。
「話してもいいけど、怒ったりしない?」
「しないわ」
「つかここで話すのとても怖いんだけど。万が一にも桃子の逆鱗に触れて突き落とされたら確実に骨折以上の怪我を負うか、下手すりゃ死ぬだろ」
「怒らないって言ってるでしょう?」
「なんかもう怒ってるみたいなんだけど?」
「それは健一くんが怒らせるようなことを言うからでしょう」
「だったらオレが話す内容が桃子を怒らせないとは限らないよね?」
「それは屁理屈というものよ」
「いやでもかなり屈辱的な行為もあるんだよ? たとえばこういった屋上から嫌がる桃子に放尿させて、誰かに見られるかもしれないという恐怖に震える姿を見て楽しむとか」
「この変態! どうして私が屋上から、ほ、放尿しなくちゃいけないの? 健一くんってやっぱりそういう趣味だったのね!」
「いや、妄想だから、ていうかこの時点で怒ってちゃ続きは無理だよきっと」
「いいわよ。構わないから話しなさい」
「いや、これ以上はマジで無理。というかそこまで言うなら桃子の話も聞かせてくれないと不公平だよ」
「言えるわけないじゃないの。健一くんは常識というものがないのかしら?」
「うん。その台詞は矛盾だらけだね。それにトリノ姉さんは教えてくれたよ?」
「私を雉丸さんみたいな痴女と一緒にしないでほしいわ」
いい勝負だと健一は思ったが、流石に口にするのはやめておいた。
「今日もいい天気だな」
「そうね。こんな日も勉強だなんて、健一くんは大変ね」
「息抜きにどっか行かないか? 課外授業ってことで申請すればいいんだっけ?」
「どこへ行こうというの?」
「ん~近所の公園とか?」
「そこでするのかしら?」
「しないよっ!」
「あら、私は勉強をするのかと聞いたつもりだったんだけど、変態の健一くんは別の事を想像しちゃったのかしら?」
「……しました」
「そう。公園の散歩くらいなら付き合ってあげてもいいわよ。その代わり条件があるの」
「なに? 青姦とかはしないよ」
「当たり前じゃないの。条件は大したことじゃないわ。二人だけで行くこと。透さんと雉丸さんには内緒よ」
「ふーん。なんかデートみたいだな」
「違うわよ。でも、健一くんがそう思いたいなら、好きなだけ勘違いしているといいわ」
「それじゃそうさせて貰おうかな」
トリノが言っていた些細な変化は、こういう会話の端々にあらわれていた。
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