第15話「ぽわぽわ」
次の日の朝も同じだ。またピクニックに行くと嘘をつき(お母さん、本当にごめんなさい)、食料品をいくつか持って真紀達に会いに行く。玄関で靴を履く僕を、お母さんは静かに見つめる。
「行ってきます」
「あ、待って。これ持って行って」
そう言ってお母さんが渡したのは、箱入りのごま団子だった。美味しそう。
「お仕事の同僚が旅行に行ってね、そのお土産なの。お友達のみんなと仲良く食べてね」
「ありがと。それじゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい♪」
お母さんお得意のキラキラした素敵な笑顔だ。でも、お母さんは知らないだろうなぁ。僕が会いに行ってるのは、知り合ったばかりの素性もわからない人達(しかも未来人)だってことを。嘘を教えているから当然なんだけど。
何はともあれ、隠れて暮らす未来人達に定期的に会いに行くという、変な日常が出来上がってしまったわけだ。でも悪い気はしない。それも真紀がいるからなのかな?
「真紀は何が好きかな?」
時刻は午前7時02分。その割には誰も行き来していない住宅街で、僕は一人呟きながら歩く。ごま団子は好きかな? 一応スイーツではあるし、女の子はスイーツ好きだよね。
あれ……これって偏見かな? そもそも未来にごま団子はあるのか。そもそもスイーツはあるのか。この後聞いてみようかな。
今日もまた、少し不思議な日常が始まる。
ふわぁ~、よく寝たぁ。昨日満君が用意してくれたこのテント、寝心地最高だよ。ありがとう満君。
「パパ、ママ、おはよう」
「真紀、おはよう。昨日はよく寝られたみたいだね」
「あれ? パパ、治ったの?」
ママがキャンプ用のケトルで淹れたコーヒーを
「いや、まだ壊れたままだよ。今日も修理で忙しくなるなぁ」
「タイムマシンじゃなくてパパの方! 熱は下がったの?」
「もちろん。気合いで治してやったよ! 早く修理終わらせないといけないから。いつまでも寝てるわけにはいかないよ」
「もうアナタったら……本当に無理しないでよね」
「あぁ、わかってるよ。気を付ける」
ママも呆れたように言うが、本当にパパを心配していることが伺える。いつもパパがママの尻に敷かれてるイメージだけど、何だかんだでラブラブだものね、あなた達。
そこへ足音が近づいてきた。
「おはようございます。今日も色々持ってきました」
やっぱり満君だ。今日はトートバッグみたいなものに、食料品を詰めてやって来た。朝ごはんを用意してくれたらしい。とても助かる。
「おはよう満君。今日も悪いわね」
「いえいえ」
「ありがとう満君! 昨日のプリン、すっごく美味しかったよ♪」
「そう、よかった。あ、もしかしたら今日の朝ごはんも量足りないかもしれないですけど」
「これだけで十分だよ。ありがとう」
テントの中で、青葉満大明神に感謝しながら朝ごはんを食べた。アリガタヤアリガタヤ。
「あ、そうだ。これも持ってきたので、よかったら食べてください」
そう言って、満君はトートバッグから長方形の箱を取り出した。綺麗な包装がされてるわね。何かしら?
「ごま団子です。どうぞ」
「ごま……団子?」
ごま団子……何それ? 美味しいの? ごまでできた団子ってこと? とにかく見たことがない。未来人である私が知らないということは、きっと過去の時代の食べ物よね。
「真紀、ごま団子知らない?」
「知らないわ。私達の時代にそんなのないもん」
「そうなんだ。えっとね、あんこを包んだ普通のお団子に白ごまをまぶしたもの……って言えばわかるかな?」
「んん! 美味しい!」
私は既に包装紙を破り、箱を開けてそれを口にしてしまった。ごまのほのかな油味とふわふわの餅生地、そしてなめらかなあんこ、それぞれのコンビネーションが絶妙なハーモニーを奏でていて、まるで和の宝石箱だ!
食レポの素人が使うであろう決まり文句を、心の中で盛大に叫んだ。
「こら! 真紀ったら、先に食べないの! まずはお礼でしょ!」
「あ、そうだった。ありがとう満君」
「どういたしまして」
今日の朝も満君が持ってきてくれた食料のおかげで、なんとか命を食い繋ぐことができた。青葉満天照大神に本当に感謝だ。あれ? 天照大神って女神だっけ?
「それにしても満君、食べた後で何だけど、家からこんなに食べ物持ち出して大丈夫なのかい?」
「親にはピクニックに行くって言ってありますし、ちょっとぽわぽわした性格なので……多少は許されると思います。多分」
ぽわぽわした性格って……。でもさすがに連続して持ち出したら、親に怪しまれるわよね。いつまでも嘘をつき通させるわけにもいかないし。足りない食料の分は買ってもらうにしても、お金にだって限りはある。満君の負担がさらに重くなる。
でも、私達の方だって満君の協力無しで生きていくのは厳しいし。難しいわね。
それじゃあやっぱり……
「じゃあ、今日の分のお昼ごはん買ってきます」
「本当に悪いわね」
「いえいえ」
「私も行く!」
「真紀も? 気をつけなさいよ。もし怪しい行動とって私達の正体が他の人にバレたら……」
「大丈夫だって! 何度も言わなくてもわかってるわよ」
も~、本当にママは心配性ね。昨日は色々危ない発言しまくってたけど、ぶっちゃけアレ、わざとだから。うっかりボロ出すことだけはしないから。私は満君の背中を追いかけた。
「満君の親ってぽわぽわしてるとか言ってたけど、どういう感じに?」
「えっと……全然知らない人に連絡先教えてって言われて、呑気に教えようとしたりするくらいかな」
「え? それ大丈夫なの?」
「まぁ、天然なんだよ。嫌味とかは感じないくらいのね」
「天然ってレベルなのかなぁ、それ」
なんて他愛もない話をしながら、昨日行ったところと同じデパートに来た。満君と私は、両手にいっぱいになった買い物袋を持って歩く。ついでにこの時代にしかなさそうな珍しいお菓子も、いくつか買ってもらった。どれもみんな美味しそうね♪
普通に買い物をしてるだけだし、今のところ私達は周りからは現代の若い男女にしか見えないはず。決して未来人が混じってるとか、そんなことはない(ある)。
「あ、そうだ真紀、これ」
「ん? なぁに?」
満君はポケットから腕時計を取り出し、私に差し出した。いかにも遅れた時代の古い腕時計だ。
「もっと早く渡せばよかったかな。真紀達、もしかしたら時間わからなかったりすると思って。持ち出せるのがこれくらいしかなかったけど、よかったら使って」
「わぁ~♪ ありがとう!」
私達未来人はタイムテレフォンを所持しており、そこに現在の時刻が表示されるようになっているのだが、それは私の時代の時刻であってこの時代の時刻ではない。だから、一昨日から今は一体何時何分なのかを確かめる術が無かった。これはとても助かる。
「ん?」
「どうしたの? 真紀」
ふと、私は隣へ目線をずらす。私と満君の右隣に、ゲームセンターのスペースが広がっていた。これ、あのゲームセンターよね? クレーンゲームとかメダルゲームとかあるやつの。
「満君! これってゲームセンター!?」
「え? うん、そうだけど……遊びたいの?」
「うん!!!」
首がちぎれて頭が吹っ飛ぶくらいの勢いで頷いた。グロい表現でごめんなさいね。でもね、私ゲームセンター大好きなのよ!
「じゃあ、ちょっと寄ってこうか」
「やったぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
この時代にやって来て、本当によかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます