第13話「人助け」



 朝日が眩しい。日差しが目にダイレクトに降り注がれて、目が覚めてしまった。まだ眠いのに……。首元がくすぐったい。目を凝らして見てみると、ママの長い髪が巻き付いていた。それをほどいて起き上がる。


「ん~、やっぱり寝心地悪いわねぇ」


 ちゃんとベッドや布団で寝たかったが、こんなことになってしまうとは思ってもいなかったため、持ってきていない。

 タイムマシンが墜落、爆発した荒れ地は地面もゴツゴツしており、あちらこちらに大きな倒木が散らばっている。どかそうにも、重過ぎて私の力では無理だ。後でパパに手伝ってもらおう。


「パパ~?」


 そういえば、パパはどこかしら。周りを見渡すと、パパはタイムマシンの横で倒木に横たわって寝ていた。いや、寝てはいない。何やら様子がおかしい。


「へにゃぁ……」


 パパは髪も肌も真っ白になり、完全に燃え尽きていた。






 ピピピピピピピ……

 朝だ。僕は目覚ましの音を止め、ベッドから起き上がる。メガネをかけて、背伸びをする。少し体がだるい。爆発に巻き込まれたこともあり、疲れがまだ残ってるらしい。他にも昨日は色々あったからなぁ。


「6時30分か……」


 タイムマシンで現代にやって来た真紀達。彼女達も昨日はかなり疲れている様子だったので、今日は何か差し入れを持ってくつもりだ。

 そのために、土曜日にも関わらずこんな朝早くに目覚ましをかけたのだ。彼女達がまだ寝ているとは限らないが。


 サー

 カーテンを開けて、朝日を目一杯浴びる。パジャマを脱ぎ、私服に着替える。そして一階に下りて準備を始める。

 冷蔵庫を開け、ソーセージ、お茶、パン類、その他諸々食料品を出し、リュックに詰める。そうだ、庭の倉庫に確かアレがあったはず。アレも持っていくか。それから……




 ガラッ


「ふわぁ~、おはよう」


 うわっ、まずい! お母さんが眠気を引きずってリビングに入ってきた。こっそり朝早くに外出しても気づかれないよう、同じベッドに潜り込んできたお母さんを自室に追い返したというのに。


「ん? 何してるの~?」


 こんなに食料品を勝手に持ち出したら、怒られるかもしれない。どうしよう……。


「あ、え、えっと……と、友達が急に今からプチクラ山にピクニックに行こうって言ってね。ほんとに急に連絡が来たから、今準備してるんだ」


 また嘘をついてしまった。ごめんなさい、お母さん。罪悪感が再び背中にのし掛かる。


「あらあら~、そうなの。楽しんで来てね♪」


 あっさり信じてくれた。そうだ、僕のお母さんはいつもこんな感じだ。天然というか何というか、いつもぽわぽわしている。詐欺師に騙されたりしないか、とても心配になる。だが今は助かった。


「うん、行ってきま~す」


 リュックを背負い、玄関の扉を開ける。お母さんは手を振りながら笑顔で見送る。


 ガチャッ

 扉を閉めた後、僕は家の裏に回る。外から庭に入れる入り口があるので、そこを通って倉庫まで向かい、扉を開ける。中にはキャンプ用のテントとシュラフがあった。これも持っていこう。


 大荷物だな……。






 タオルを水で濡らし、パパの額に乗せる。額からは汗がたくさん溢れ出てくる。


「もう! 無理しないでって言ったじゃない!」

「いやぁ……早く……直さないと……いけない……から……その……」


 パパは昨晩、一睡もせずにタイムマシンの修理作業を行っていたらしい。そのため、熱を出して倒れこんでしまった。


「だからって、アナタが体調崩しちゃったら元も子もないじゃないの!」

「すいません……」


 ママは息子をしつける母親のようにパパを叱る。確かに、タイムマシンを直せる人はパパしかいない。少しでも直せる可能性があって、それにすがり付こうにも、パパが倒れてしまっては困る。


「とにかく、今はしっかり休むこと! いいわね?」

「はい……」




「あの~、みなさん大丈夫ですか?」


 後ろから声が聞こえてきた。振り向くと、満君がいた。背中にはリュック、両腕には何か細長いものを脇に挟みながら重い足取りでやって来た。朝の憂鬱が軽々と吹っ飛ぶ。私は彼に駆け寄る。


「ふぅ、重かった」

「満君! 来てくれたのね~♪」

「うん。色々持ってきたよ」

「満君、おはよう。悪いわね。こんな朝早くに来てもらっちゃって」

「いえいえ。あの、よかったらこれ使ってください」


 満君は両腕に挟んでいた細長いものを見せた。


「何これ?」

「テントだよ」


 満君は目の前でテントを組み立て始めた。ポールを差し込み、テントを立たせる。フックをかけ、フロントポールとリアバイザーポールを設置、地面にペグを打ち込む。リッジポールを固定させ、シートをかけ、ロープでシートを固定させたら完成。


 ごめんなさいね。作者の文章力での解説じゃ全く理解不能だろうけど、我慢してちょうだい。どうしようもないもの。


「すごいわね! 結構手慣れてるじゃない」

「友達や家族とよくキャンプ行ってたからね」


 とにかく、満君のテント設営の手際はなかなかのものだった。お友達と一緒にキャンプに行き、せっせとテントを設営してみんなから称賛される満君の姿が安易に思い浮かぶ。


「わざわざ用意してくれてありがとね」

「いえいえ」

「ねぇ、もう中入ってもいい?」

「いいよ」


 私は入り口を開けて中に飛び込んだ。かなり快適だ。床は地面のゴツゴツを感じさせることなく分厚い。天井はほどよく光を通して明るい。暑くもなく、寒くもない。


「それにしても、この時代のテントって自分で一から組み立てるのね~」


 ふと、ママが呟く。それは感心しているのだろうか。確かに、自分で一から組み立てるのはめんどくさいものね。


「未来のテントってどんな感じなんですか?」


 満君が尋ねる。過去の人間だから、未来の技術とかが気になるのはわかる。


「握りこぶし程度のコンパクトなものでね。小さなヒモがついてて、それを引っ張ると自動的に膨らんで大きくなるの」


 家にあるやつのことだ。我が家はあまりキャンプはしないので、小さい頃に数回ほどしか使ったことないけど。


「でも、この時代のテントだって、組み立ては大変そうだけど、クオリティは私達の時代のものにも負けてないわよ」


 そう言って、ママもテントの中に入っていった。


「今日からここで寝る~♪」

「へぇ~、確かに快適ね」


 ママもこのテントが気に入ったみたいね。


「ぼ……僕も……テント……入る……」


 あ、パパのことすっかり忘れてた(笑)。ママは満君に手伝ってもらいながら、パパをテントの中まで運び、寝かせる。パパの体はだいぶ色味が戻ってきた。


「あ、そうだ。これも持ってきたんです。これもぜひ使ってください」


 そう言って、満君はキャンプで就寝用に使う寝袋を渡してきた。なんか、次々と便利なものが出てくるわね。


「これって、寝袋?」

「うん。キャンプ用のシュラフだよ」

「これもわざわざ用意してくれてたの? ありがとう!」

「夏とはいえ、山の上じゃあ夜も冷えるからね。あとそれから……」


 まだあるんかい! なんでそんなに私達に尽くしてくれるのかしら?


「あと、食べ物とか飲み物を適当に持ってきました。三人いるのでちょっと足りないかもしれないですけど。もし足りなかったら言ってください。買ってくるので」


 え、なにこの子……ちょっと、めっちゃ良い子なんですけど!? 昨日会ったばかりで、タイムマシンやらワームホールがどうのこうのぼやかす超怪しい一家に、ここまでしてくれるの!?


「どうして? どうしてそんなに私達のことを助けてくれるの?」

「どうしてって、助けてほしいって頼まれたし。それに、頼まれたこととかも関係なしに、困ってる人がいたら助けてあげたいと思うのはあたりまえでしょ? だから、こんな僕でも力になれることがあるのなら、協力させてほしいんだ」


 彼の熱弁で、私の中の何かが変わった。偏見ではあるけど、未来人の中では過去の人間はとても危険な者だという考え方が広く定着している。

 未来人のことを宇宙人かの如く追い求め、未来の技術や思想を略奪し、社会に全面的に公表して晒し者にする。そんな野蛮な人間であると騒がれていた。


 だけど、満君は違った。満君だけではないけど、満君のように心優しい過去の人間だっている。触れ合ってみて、初めて気づいた。


「満君……あなた、何者……?」

「どうしたの急に……って、真紀? 泣いてるの!?」

「満君、ありがとう……」

「愛さんまで!? どうしたの二人共!」

「あり……が……とう」


 気がつけば、一家揃って涙を流していた。テントの床がシワだらけになってしまうくらいに。

 満君は困惑していたから知らないだろう。私達が満君に想像以上に助けてもらい、非常に感謝していることに。私達が涙を流すくらい、満君がしてくれたことはとても素晴らしいことだということに。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る