第36話 決戦 古の風竜エトドラス

「アイツは…… エトドラス!? 冗談じゃねぇ!」


「エトドラス? 古の風竜って召喚士が言ってたけど、やっぱり不味い状況だよね?」


「もちろん、不味い状況だ。火竜や空竜を1人で片付けたシャルナでもコイツは無理だろうな。無論、俺たちでは到底太刀打ち出来ない」


 側に居た騎士団の人に聞いてみたところ、あのエトドラスと言う竜はあらゆる苦難に耐え抜き、死ぬ事なく1000年以上もの時を生きている古竜との事。そのお陰で他を寄せ付けない圧倒的な力を誇り、Sランク以上の冒険者たちが束になってさえ勝率は20%を下回る程だと言う。


 恐らく夜になるまで耐え抜けば俺の全力でどうにかなるだろう。しかし 、それをのんびり待っていれば王都の民どころか王国そのものが滅亡してしまう。かといって日が出ていて全力が出せない上に、魔法創造スキルの使用による影響で魔力がいつもの60%程しかないこの状況下で、俺が向かっていっても反撃喰らって消滅するのがオチだろう。


(さて、どうしようか……)


 そんな事を考えていると、エトドラスの口に空気が集まって来た。


「嵐の息吹ストームブレスが来るぞ! 逃げろぉぉーー!!」


 その声に反応した俺を含む騎士団たちが射線上から逃げた直ぐ後、ビーム状に嵐の息吹が放たれる。


「……なんて威力なの? 離れているのにここまで暴風が届くなんて……」


 放たれた嵐の息吹は、射線上にある物を猛烈な風の圧力で破壊して砕きながら吹き飛ばす。それにより巻き上げられた建物の瓦礫がれきや土、討ち取ったドラゴンの死体等の物は周囲に凄い速度で散らされる。


 ブレスをまともに受けてしまって消し飛ぶ者や、それにより飛んできた瓦礫などに貫かれて死んでしまったり、瀕死の重傷を負う者等も出てきてしまう地獄絵図と化した王都。


「あ、ぐぁぁ……」


「くそ! 治療を誰か、頼む!」


 その声を聞いて、俺は治療の為に負傷した人の元へ向かっていると、奴が俺に向けてまた嵐の息吹を豪快に発射してきた。


「打ち消せ!『闇氷の十字架カーシクルクロス』」


 全力の闇氷の十字架と、嵐の息吹がぶつかり合って消滅する。どうやら威力は殆んど同じのようだ。流石は古竜、とんでもない威力だ。そうして道中何度か妨害を受けるも、全て同様の魔法で相殺しながら負傷者の元に行って全回復フルヒールを掛けて回復させる。


「すまん。助かった」


「間に合って良かった…… さて、あの古竜どうしようかなぁ」


 まず俺がこんな状態だと、上級魔法でも古竜のエトドラスを殺すどころか戦闘力を削ぐことすら難しい。最上級魔法を乱射していれば倒せるかもしれないが、そんな事をしていては奴を殺す前にこっちの魔力が尽きてしまうだろう。


 もう一度魔法創造スキルを使い、奴を葬り去る魔法を創造しようとも思ったが、ただでさえ魔力が60%程しかないのにそれ以上減らしてしまえばそもそも発動させることすら出来ない。さて、どうしたものかと悩んでいると……


「あっ! シャルナさん、無属性究極魔法『収束魔力砲コンバードマナカノンって知ってます? 貴女ならあれを使えば奴を消せるかもしれません」


「収束魔力砲…… あっ!」


 いつだか読んだ魔導書の無属性魔法の項目に最強とあった魔法だ。自身の魔力を一点に集め、それを一気に放出する事による純粋な破壊のみで攻撃する。だが、その性質ゆえに術者の魔力の質や量に威力を左右されやすい上、溜めるのに時間が掛かりすぎて使いづらいと言う欠点もある。


「いや、でもそれって魔力の収束に軽く15分掛かるんだけど……」


「私たちが全魔力を防御と回避に注いで何とか奴の気を引きます。貴女はその間に収束魔力砲の準備を!」


「相手は古竜だよ? 貴方たちが死んでしまうかも……」


「どのみちこのまま戦い続けていても皆魔力を使い果たして死にます! だったら貴女と言う希望に賭けてみたいと、そう思いました。なので仮に私たちが全員死んでしまっても、貴女が気に病む必要はありません! だからとにかく早く準備を!」


「うん。分かった」


 こうして古の風竜エトドラスの気を引くために生き残りの魔導隊や騎士団たちが向かって行く。


(さてと、こっちはこっちでやることやらないとな)


 そうして俺は収束魔力砲を唱え始める。この魔法を発動させている最中は一切の魔力を使う行動が出来なくなる為、その場にずっと留まっていなければならない。彼らがどれだけ酷い傷を負っても、古竜が嵐の息吹や魔法を使ったとしても15分の間見ていることしか出来ないのは辛い。


「よっしゃあ! お前ら、15分何とか耐え抜けば俺たちの勝利だ!」


「ダメージを与えることは考えないで、自分の身と奴の気をシャルナに向けさせない事だけを考えて!」


「そうは言っても…… ヤバい、来るぞ!」


 再び奴の口から嵐の息吹が放たれ、彼らを襲う。防御と回避に専念している為、大半の兵士たちは無傷で回避出来ていたが、それでもやはり数人はその度に消し飛んだりしてしまう。


 そして3分の2魔力を溜め終えた頃には兵士たちの数が3分の1程まで減っていた。これ以上犠牲者を増やしたくない、早く放ちたいと言う焦りが出てきたものの、これで倒せなければ全てが水の泡と化してしまう。焦りを必死に抑え、完全に溜まるまで待つ。


「あと3分程で全部溜め終えますので、皆さん何とか持ちこたえてください!!」


「了解! お前ら、この地獄もあと3分だってよ! もう少しだ、頑張るぞ!」


「「「おぉぉぉぉ!!!」」」


 俺がそばにいた兵士と遠くの兵士にそう呼び掛けると、生き残りの兵士たちがそう歓声を上げ、エトドラスに向かっていった。そして3分後、遂に全て溜め終えたので、射線上に居る味方や逃げ惑う人たちに呼び掛ける。


「溜め終えました! 私の前から素早く逃げてください!!」


 そうして皆が避難し終えた後、俺は奴に魔方陣を向ける。


「さんざん破壊を振り撒いてくれた古竜よ、今ここでお前を消す! 『収束魔力砲』!」


 俺がそう言うと、奴に向けた魔方陣からとんでもない破壊力を秘めた光線のように収束した魔力が向かっていく。それに気づいた奴は風の息吹を魔法の補助付で放ってくる。少しの間拮抗した後、徐々に俺が押していって最終的にはブレスごとエトドラスを葬り去った。


「や…… やった…… やったぞお!! 古の風竜エトドラスを葬り去った! これで王都の全滅は免れたぁ!!!」


「ありがとう! あんたのお陰で助かったぜ!」


「犠牲者0とは行かなかったが、シャルナが殺ってくれなきゃ王都どころか王国そのものが消滅する可能性だってあった。ありがとう!」


「はぁっ、はぁっ…… それは…… 良かった……」


「おい、大丈夫か! お前ら、早く王城内に連れていけ! それと魔力ポーションと回復魔法使える奴用意しろ!」


「「「了解です団長!」」」


 こうして持てる魔力のほぼ全てを使い切り、エトドラスを葬る事に成功した俺だったが、魔力の使いすぎにより倒れてしまった。

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