第34話 王都防衛戦 開戦
「クルウェイク団長、ご迷惑を掛けました。不覚を取り、潜んでいた帝国軍に捕まると言う失態。この娘が来なければどうなっていたか……」
アルトーナの町に帰還した後に騎士団所属の部隊員たちの無事を伝えるのと、森に潜んでいた帝国軍を率いていたグレッサーと言う捕らえた魔導師を引き渡す為、クルウェイクの元に訪れていた。
「いや、お前たちが無事ならそれでいい。まあ、強いて言うなら探知系魔法を使い忘れて捕まった事で皆に心配を掛けた点は良くなかった。だから早く仲間に無事を伝えに行ってきたらいい」
「「「分かりました!!」」」
部隊員たちが出ていった後、改めて俺の方に向き直ってクルウェイクはこう言ってきた。
「さて、ご苦労だったな、ルナ。そいつが帝国軍を率いていたって言うグレッサーって魔導師だな。どうして捕まえてきたのか、まあ一応理由を聞いておきたい」
「えっと…… 軍を率いてる隊長さんだから、何か王国侵略に関する情報を持っていそうな気がして」
「成る程…… てかさっきから全く動かないが、大丈夫なのか? そいつ。一体どんな手段で連れてきたんだ?」
「この人の最上位水属性魔法の
取り敢えずここまで来れば大丈夫なので、ひとまず呪いだけは回復魔法で解く。その後、クルウェイクがグレッサーに対して今にも斬り殺すかのようなオーラを放ちながら尋問を始めた。そして25分後、あらかた情報を引き出した後に荷馬車を用意し、王都へ移送した。
「……想像以上に事態は不味いことになったかもしれないな。もしアイツの話が全て本当だったら、私たちが行かなければ王都が危ない。だが、アイツの話が全て嘘だったら逆にここが危ない。戦力を分散させれば各個撃破の恐れもあるし、さてどうしようか……」
尋問した結果、まず軽く国境の町を攻撃してこちらの防衛戦力を釘付けにしておいて、その隙に王都に王国侵略の為に前から潜ませておいた召喚士部隊にドラゴン等の魔物を召喚させて、王もろとも王都を火の海にして制圧すると言う計画があることが分かった。
「ちょっと待て。確か王都防衛って上級召喚士の召喚するドラゴンでやるって話だったよな。まさか……」
「待ってルスマス。まだコイツの言うことが本当って決まった訳じゃないよ」
「確かにそうだが……」
まさかの王都を守る召喚士が実は敵である可能性が出てきてしまった為、ここに留まるか王都に戻るかの議論が1時間以上も続いた後、ユーラが提案してきた。
「あの…… 私は彼の話を聞いて、実際の真偽はともかく王都に戻るべきだと思います。ここが落とされても王都は残りますが、王都が落とされては国が滅亡したも同然ですので、どちらが重要かと考えたらやはり……」
その提案と理由を聞いた俺たちとクルウェイクは、念のためにアルトーナの町に戦力を半分程度残し、王都に急いで戻る事を決めた。来た道を急いで馬で駆け抜け、王都ルテス手前の町で第2の王都とも呼ばれている『ルバカラト』に到着した時、俺たちの目の前にエルテス2世の部下である文官たちが現れた。
「どうしたんだ?」
「た、大変です! 王都に居た召喚士が、ドラゴンを大量に召喚して暴れさせていて、とても私たちだけでは対処が出来なくて……」
魔導師グレッサーの言った通り、王国に居た召喚士はイーゼンセン帝国軍関係者のようだった。
「エルテス2世はどこにいるんだ? まさか殺られたとか……」
「いえ、もう少しだったら馬車に乗ってここに着くはずです」
「成る程。王都はもう既に陥落しているのか?」
「まだ王都に残っていた魔導師たちが奮闘していましたが、陥落するのも時間の問題でしょう。何せ、相手しているのが17頭のドラゴンと2頭のスカイドラゴンですから」
「成る程。普通のドラゴンだけでも辛いのに風属性のドラゴンが居るとか地獄以外の何者でもないから、これは急いで行くしかない。だけど、馬の全速力で約5時間掛かる距離な上にずっと全速力で走れる訳じゃない。地形だって走るのに適してない場所があるし…… そう言えばルナって仮にここから全速力で飛行するとして、どれくらいで着きそうだ?」
ルスマスが俺にそう問い掛けてきたが、試したことなど無いので分からない。これも
「魔法創造……『
全身を強力な魔法障壁で包み込み、後方から魔力を噴射して飛行する魔法を開発した。最大で音速の1.3倍の速度で飛行することが出来るが、魔力消費が激しい上にただ飛ぶだけで攻撃が出来ない。人も乗せることが出来ない為
「今新しい飛行用の魔法を開発したから、これで行けば15~20分程で着くと思う」
「ん? 15分? マジか…… まあ、無理すんなよ。魔法創造スキル使ったから魔力も結構減っているだろうし。俺たちも出来る限り急ぐから」
「うん。分かった」
こうして俺は、1人でのさばるドラゴン共を駆逐する為に新開発の魔法を使って王都に向かう事になった。
「ちくしょう! コイツら帝国軍だったとはな! スカイドラゴンなんか召喚してくれたお陰で王都は地獄だ!」
「悪態ついてる暇があったら魔法を放ってろ!」
「やってるさ! だけど凄い速さで飛びながら火炎弾やら暴風弾ぶっぱなしてくるから、避けたり防御したりするのが精一杯でまともに命中させられねえんだ!」
クルウェイク団長の部隊が行ってからしばらく経って、我が王が雇った召喚士が実は潜んでいた帝国軍だと言う事が判明した時にはもう遅く、ドラゴン召喚の術は完成してしまい、王都にドラゴンたちが解き放たれてしまった。
何とか2頭は撃墜したものの、ドラゴンの群れに加えてスカイドラゴンの猛烈な風の弾が俺たちに襲いかかり、戦闘始めごろから騎士団や魔導隊の兵士の数が半分以下にまで減らされてしまう。
「くそっ! アルトーナの町に行った団長とあの冒険者たちが戻ってくればなぁ……」
そんな事を考えていると、ルバカラトの町の方向から何かが飛んでもない速度で飛んできて、今まさに攻撃をしようとしていたスカイドラゴンに激突した。その衝撃でスカイドラゴンは爆発四散し、超高速で飛んできた物体はその勢いのまま地面に激突して大きなクレーターを作った。
「ゴホッ! ゴホッ…… 一体何なんだ今の物体は?」
「まあ、何でも良いじゃねえか。お陰で厄介な奴が1つ消えてくれたんだ」
「確かに。それと、今ので潜んでいた帝国軍の奴らも片付いた…… ん? クレーターの方から何かが歩いてくるぞ!」
もうもうと立ち込める砂煙の方を見ていると、誰かが歩いてくるのが見えた。しばらくして姿が見えてくると、俺たちは驚いた。なぜなら、団長と共にアルトーナの町に向かったはずのルスマス冒険団の内の1人、吸血鬼シャルナが居たからだ。
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