第33話 吸血鬼の本領発揮

「ルスマス、怪しいところはなかった?」


「ああ。特にないぞ」


「ルナはどう? スキル使っても敵はいない?」


「うん。感知なしだよ」


 あの後、俺たちはクルウェイク他15人の騎士団と共に国境付近の見回りをすることが決定したので、他の騎士団たちと交代で見回りをしていた。今のところは偵察もなく、奇襲の気配も全く感じない。そうして何事もなく交代の時間が来たので、1日目はこれで終わりとなった。


 2日目~4日目は、俺たちの待機中に3回偵察兵が来たらしいが、今度は取り逃がすことなく排除に成功したようで、その後は特に何もなく時は過ぎた。そして5日目、いつものように見回りを終えて戻り、休憩していた。すると、クルウェイクが俺たちの泊まっている部屋に少し慌てている様子で入ってきた。


「ルスマス、ちょっと頼みがあるんだが良いか?」


「ああ。で、頼みって何だ?」


「実は、夜目の効く私の騎士団に所属する部隊が先ほど見回りに行ったきり姿を見せなくてな。もしかしたらイーゼンセン帝国軍に仕掛けられて捕まったか殺されてしまった可能性がある。だから、見回りを兼ねて捜索隊を組織し、探しに行こうと思っているんだが、人員が足りなくて……」


 どうやら、クルウェイクの率いる騎士団所属の部隊が見回りの途中に行方不明となってしまい、捜索隊を作って探しに行こうとしているが人が足りずに困っていると言うことらしい。確かにここの防衛もあるだろうから、捜索に割ける人員は少ないだろう。


「良いと言いたいが、俺やユーラ、リニルシアは夜目が効かないしな。まともに夜中行動できるのは吸血鬼のルナだけだから、人員が不足するのは変わらな…… いや、完全探索パーフェクトサーチスキル使いながら空を飛んで探せばもしかしたら…… ルナ、1人で行けるか?」」


「うん。夜は私にとって昼間のようだからね。全力も発揮出来るし、1人で大丈夫!」


「ありがとう。吸血鬼である君が居れば夜の捜索ははかどるだろう。もし、捜索途中王国領内でイーゼンセン帝国軍を見つけたら君の判断で捕まえるなり殺すなりしてくれて構わないが、間違えても味方を殺るなよ」


 そりゃそうだ。今回の主目的は味方の捜索である為、見つけた帝国軍を殲滅せんめつする事に集中しすぎて巻き込んでしまえば話にすらならない。その為スキルによる探索をかなり慎重に行う事を誓い、綺麗な月夜の空に飛び立った。


 かなり高くまで上昇して完全探索スキルを常時発動モードにしつつ、国境近辺を飛び回って探し回る。


「夜にくっきり周りの景色が見えるって快適だなぁ~」


 吸血鬼の夜でも昼間のように見える目に加えてスキルの力により、捜索が1人でも問題なく快適な捜索が出来ている。15分程木がまばらにある平原を捜索した後、そこそこ大きな森の上空を飛んでいると、スキルの捜索網に200程の人間の反応を500m先に捉えた。


 その反応があった場所の上空に向かい、完全探索スキルを情報収集モードに切り替えて発動させる。すると、そのほぼ全てが帝国軍で残りの17人が探していた味方で、何か狭い牢屋のような場所に隔離されて囚われているようだと言う事が分かった。


「牢屋の見回りの人数は3人…… よし、行きますか!」


 そうして上空から急降下し、素早く監視兵をクラバルナとアイヴァで斬って葬る。正直隔離されていて助かった。もしも200近くの兵が居た場所の近くだったらもっと面倒な事になっていただろうから。


「貴方たちを助けに来たよ! クルウェイク団長に頼まれてね」


「そっか。じゃあ私たち助かったんだね」


「お、お前はあの吸血鬼か。助かったぜ」


「不覚だったわ。200近くのあの狂剣士グレッサーの率いる帝国軍騎士団

 に囲まれて成す術もなく捕らわれるなんて」


「全員合わせて10人位しか殺れなかったしなぁ。抵抗むなしく吸魔の腕輪を付けられてしまったから、脱出しようにも無理だったし」


 全員特に拷問等を受けた様子などはなく、元気そうで良かった。だが、万が一何かあればいけないので、彼ら彼女らに付けられた吸魔の腕輪とやらを力ずくで破壊した後に全員に治癒ヒーリング・オブ・ウィンドを掛ける。


「回復魔法をありがとう! お陰で体力が元に戻ったよ」


「それは良かった! じゃあ今からそのグレッサーって奴が率いる騎士団を殲滅してくるからちょっと待っててね!」


「「「え?」」」


 そうして俺は空へ飛び立ち、帝国軍の居る場所まで行く。そしてそこから氷矢アイスアローを雨のように放ちながら急降下して、それに当たった兵士と着地点に居た兵を葬った。


「何だ貴様は!?」


「えっとね…… 貴方たちを殲滅しに来た吸血鬼かな? 名前なんて名乗らなくて良いよね? どうせ全員私に滅ぼされるんだから」


「何を言ってる、ふざけんな!」


 そう言って兵士たちが剣で斬りかかってきた。だがルスマスよりもパワーとスピードがない上に、今は俺の全力が発揮できる夜中だ。なので、特に苦もなく排除が完了した。


 そのすぐ後に中級や上級魔法が集中して放たれて来たが、それを全て受けきる。そしてこちらもお返しとばかりに蒼零アブソリュート流星群シューティングスターを放ち、半分以上の兵たちを零下の氷漬けにした。


「おい…… 嘘だろ? 今ので半分以上の兵が葬られたとか、化け物じゃないのか」


「グレッサー様はどうなされたのだ! 早く来てもらわないと全滅してしまうぞ」


 今の魔法によって怖じ気づく兵士たち。このまま殲滅してしまおうとしたその時、奥から1人の男が出てきた。


「グレッサー様! この吸血鬼です。我らでは手に負えないのでどうかお願いします!」


「はいよ…… 『聖なる裁ホーリージャッジメントレイ』」


 暗い森を昼間のように照らす程の光が一点に集結し、そこから光線が放たれた。出会っていきなり放たれた魔法をクラバルナで一旦受けてから受け流し、側に居た敵兵士もろとも葬った。


「剣で受け流したか。やるではないか…… 『水帝の怒りエングリペルアクア』」


 物凄い量の水がまるで意思を持っているかのように四方八方から襲いかかって来て、俺を飲み込む。だが、水属性攻撃が効かない俺にとっては慌てる事はない。魔法を喰らっている最中にグレッサーに対して呪雷光カースライトニングを放ち、動きを止めることに成功する。


「何故…… あの魔法を受けて吸血鬼が動けている……」


「何故かって? それは私に水属性攻撃が効かないほどの強い耐性があったからだよ。あ、そうだ。貴方はいい情報を持ってそうだから王国軍に連れていくね」


「くそ…… 放せ!」


 こうして俺は、有用な情報を持って居そうなグレッサーを捕らえた。その後先ほど牢屋に閉じ込められていた味方の元へ向かい、牢屋を破壊して救出する。そして夜明けが近くなってきた頃、無事にアルトーナの町に全員で帰還する事に成功した。

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