第32話 冷酷な裁き

「ユーラぁぁぁぁぁ!!!」


 苦しむ姿を目撃した瞬間、目の前のスタロイテとの戦闘などどうでもよくなり、反射的にユーラを助けに行く為身体が動いた。と、その時……


「俺を無視するなんて舐めてくれたなぁ!!」


 無視したスタロイテが俺の前に立ち塞がり、攻撃を加えてこようとした。


「邪魔をするなぁぁぁ!!」


 ユーラを傷つけられて、怒りのあまり殺さない程度の手加減など忘れ、今使える力の全てを使い、クラバルナで思い切り横に全力で薙ぎ払う。俺の怒りに呼応したのか、クラバルナの闇の力が増大して斬ったスタロイテが死体も残さずに消滅した。


 そんな感じでやられたユーラの元に行き、魔力障壁で俺とユーラを囲んで守ってこの壊魔の呪いと言うものを解除する為、創造した回復魔法や魔導書を読んで覚えたあらゆる回復魔法を掛けるも、効力を発揮することはなかった。


「何で!? どうして回復しないの!?」


 予想外の出来事に焦りだけが募る。どうしたものかと悩んでいると……


「クッ…… アッハハハハ! 無駄だねぇ。壊魔の呪いを掛けられた者は体内の生命維持に使われる魔力を少しずつ破壊される。掛けられた回復魔法すら無効化するこの呪いを解除するには『解呪の秘薬』しか無いのだ!」


 まさかこの場でそれが必要になるとは思わなかったので、用意していなかった。今まで回復魔法が効かない状態異常やそれを使う敵に会ったことがなく、油断していたのが主な理由だ。


「どうすれば…… いいの?」


 いくら考えても案が浮かばず、俺の心を絶望が支配していたその時、何故か『吸血すれば治せそう』と思った。試したことなど無いので本当に治るのか分からない。もしかしたらこの状況下において吸血衝動が出てしまっただけなのかもしれないが、このまま放って置けば死んでしまうのは確実。ならばいっそ、この閃きに賭けるしかない。


「この際恥なんて気にしてられない! ユーラ、ごめんね」


 そうしてこの状況下で俺は、首筋に噛みついて血を吸う。


「ん…… ふぅ、はぁ…… はぁ……」


 壊魔の呪いのせいだろうか。いつもと多少違う感じがするも、相変わらずの癖になってしまいそうな幸福感・快感が俺を襲ってくる。


(頼む、治ってくれ!!)


 そう心の中で願いつつ血を吸っていると、ユーラを苦しめていた黒い霧のようなものが徐々に俺の体内に入ってくる。それと同時に顔色が徐々に良くなっているのが見えた。


(よしっ! 後もう少し……)


 更に血を吸うこと15秒、黒い霧のようなものは完全に消え去る。


「ぷはぁ…… ユーラ、今助けるね! 『治癒ヒーリング・オブ・ウィンド』『全回復フルヒール』」


 まずは他の状態異常に掛けられている可能性も考えて治癒の風を、次に体力を完全に回復させるために全回復を唱える。


「……ルナ、ありがとう」


「よかったぁぁぁぁぁ!!」


 こうして死ぬ事はなく、無事に回復させることに成功した。その光景を見ていたユーラを苦しめた張本人はたいそう驚いているようだ。ざまぁみろ。と言うか奴の顔を見てたら抑えきれそうにない殺意が沸いてきたので、ルスマスたちを襲っていた暗殺隊を葬り、こう言った。


「ルスマス。ユーラやリニルシア、エルテス王様たちと城の外まで早く逃げて! 今からユーラを苦しめた奴を


「……そうか。分かった」


 ルスマスは何か言いたそうだったが、俺の頼みを聞き入れてユーラや他の皆を連れていってこの部屋から出ていってくれた。全員が完全に出ていったのを確認すると、改めて奴に向き直る。


「まさか、この壊魔かいまつるぎの呪いが秘薬を使わずにこうもあっさりと…… 貴様は何者だ!?」


「私? シャルナ・ヴァーナイン。吸血鬼だけどね」


「日光防御持ちの吸血鬼か…… こちらにとって厄介な奴を抱え込んでいたとは、エルテス2世もなかなかやるな」


「あ、勘違いしないでもら…… まあいいや。だってこれから貴方はここで私に殺られるから」


「俺を殺すだと? ハッ! 嘘もここまで来ると笑えてくるな。あの死に損ないを苦しめたこの剣が見え…… ぐぁ! あぁぁ!」


 奴の話を聞いているだけで腹が立ってきたので、魔力を使った加速で後ろに回り込み、背中をアイヴァで上から下に斬りつけてやった。


「何だこれは…… ぐぅぅ!」


 斬った傷口が冷気で凍りついて、奴に想像を絶する痛みを与える。


「くそったれ! これでも食らえ!」


 冷気による傷口の痛みから耐えつつ、壊魔の剣で俺を斬りつけて来た。腕に傷を負ったが、かすり傷程度な上に呪いも効かない。その為すぐに回復した。


「何!? 壊魔の剣の呪いが効かないだと! まさかそんな……」


 そう言っている奴に呪雷光カースライトニングを叩き込み、呪いの力で更に追い込む。


「……くそっ…… たれが!」


「さあ、これで終わりだよ!」


 そうして止めに『蒼零アブソリュート流星群シューティングスター』と言う、上空から地面に着弾すると氷柱を発生させる凍てつく魔弾を流星群のように周囲に降り注がせる魔法を創造し、奴を葬る。そのついでにエルテス2世を殺そうと謁見の間に入ってきた暗殺魔導隊も全員葬り去る事が出来た。






「はぁ…… はぁ…… 何だよアイツ化け物じゃないか!」


 謁見の間に全魔力を使って隠れ、あの4人の守りを掻い潜ってエールテス王を殺すチャンスを伺っていた俺。だが、その内の1人のシャルナ・ヴァーナインと名乗る吸血鬼の怒りにゲインが触れ、殺気を感じてから全く動けなかったのが幸いし、生き残ることが出来た。


「あの怒りに触れた相手に容赦の無い性格、桁違いの威力の氷魔法、壊魔の呪いを秘薬を使わずに解除する手段を持ち、自身はその呪いすら効かない…… まさかあれは、占い師の言った『蒼氷の吸血鬼』と言う奴では!?」


 姿は少し違っていたが、恐らくそうだろう。暗殺作戦は失敗したから、次は軍隊を率いて攻めてくる作戦にシフトする手筈になっている。なので、このまま行けばアイツと衝突することとなり、我が帝国に多大なるダメージを与えることになるだろう。


「早く皇帝陛下に報告しなければ!」


 こうして俺はアイツに気づかれること無く城を脱出出来たので、待機中の部下の元へ向かい、これまでの事を報告する為に帝都に帰還し始めた。


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