第31話 帝国大使 ゼスティリアとの会談

 暗殺魔導隊を葬り去った後、城の外まで逃げていたルスマスたちといつの間にか居た貴族や兵士たちと合流し、非常事態の際に使われる会議室に行って話し合いをしていた。


「皆よく聞いてくれ。実は、我は数時間前にイーゼンセン帝国の暗殺魔導隊に殺されそうになった」


 エルテス2世のその言葉を聞いた、別の場所に偶然居て襲撃をまぬがれた王直属の兵士や、たまたま城に居なかった文官たちは非常に驚いていた。まあ、王が殺されそうになったなんて聞けばそうなるだろうとは思った。


「成る程。道理で城の中が悲惨なことになっていたわけですね。特に謁見の間が」


「イーゼンセン帝国の糞共が!! よくもワシの友を!」


「今すぐ帝国に攻めてやりましょう! 我が王よ!」


 城の中で殺されてしまった兵士や文官、メイドや料理人等に知り合いが居た人はもちろん、そうでない人たちも帝国に対する恨み辛みをこの場で吐き出していた。


「まあ落ち着け。で、そこに居るルスマスとやらが率いる冒険団の一員であるシャルナと言う吸血鬼の少女が奴らの攻撃を察知して我に伝えてくれたお陰で回避出来、すんでの所で助かったと言う訳だ」


 そうしてエルテス2世は一呼吸おいて再び話し始めた。


「そして更に、彼女は暗殺魔導隊の1番隊隊長のスタロイテを持っているえっと……」


「闇月剣クラバルナですよエルテス様」


「あ、そうそう。さんざんコケにしたあげく、最終的にはクラバルナで一閃して死体も残らず消し飛ばした。この目で見てきたから間違いは無い」


「マジかよ! ざまぁねえな!」


「ありがとう。ワシの代わりに恨みを晴らしてくれて」


 それを聞いた兵士や文官たちは声をあげて喜んだ。喜びすぎてエルテス2世に抱きついたり腕を組んだりする人も出るくらいだ。


「それに、城から逃げる際にも暗殺魔導隊の仲間が襲ってきたんだが、ルスマスやユーラ、リニルシアの強力な攻撃と連携によって守られた。それでお主らに相談なのだが、我はルスマスたちに『救国者セイバー』の勲章を与えたいと思う」


 エルテス2世がそう言うと、この会談に出席している全ての人たちは賛成していた。側に居た兵士に救国者の勲章について話を聞いてみたところ、エールテス王国の危機の際にそれを救ってくれた者に対して送られる物だとの事。国の民に尊敬される名誉ある勲章で、持っていると何かとエールテス王国内で有利な扱いを受けることが多くなるらしい。


「うむ。確かに条件は満たしておるから、ワシは授与に賛成だ。と言うかこう言う者に授与するべきだと思う」


「私も賛成です。となると、授与式典の開催も考えなければいけないでしょうが、いつやりましょう?」


 とある女性文官がエルテス2世にそう問いかけると、彼はその文官に対してこう答える。


「ああ、それか。もちろん開催するが、それは全てが終わった後だ。この4人の冒険者たち、特にシャルナの力を借りれば我は帝国に対して有効な抑止力となると思っている」


「つまり、帝国との不可侵条約を結ぼうと言うことでしょうか? いきなり行っても全く効果は無いと思いますが……」


「もちろんいきなり帝国に行って不可侵条約を結べなどと言うつもりは全く無い。そこでまずは帝国大使ゼスティリアの元へ行き、今回の件で抗議した後に不可侵条約を提案する。まあ、一蹴されるだろうがな。で、そうしたらそこでシャルナを出し、全力を見せつけてもらって帝国大使に『お前たちの軍など相手にならんほどの強力な者と契約を結んでいる』と言う計画をまずは実行する」


「成る程。その後に大使から帝国皇帝に連絡をしてもらって話をつけてから改めて同じ感じで彼女に全力を見せつけてもらい、不可侵条約を結ぼうと言うことですか。仮に戦争になっても防衛ならこの人たちが参加してくれるから問題ないと。いいと思いますが、そもそも本人からの了解を得ないことには作戦決行出来ません…… シャルナさん、王はそう申しておりますがいかがでしょうか?」


 女性文官にそう聞かれた。まあ、俺としては侵略戦争に手を貸すのではなく、防衛の為に抑止力として使われる位なら良いかなと思ったのと、ルスマスたちも『侵略はしないならやっても問題ない』との意思を表明していたので了承する。


「私達は決して侵略戦争に加担したりはしませんが、それでもいいなら受けようと思います」


「との事ですよ。エルテス様」


「そうか! 済まんな! では早速帝国大使館に我自ら出向くとしよう。殺したはずの相手が来たらきっと驚くだろうな」


 そうしてエルテス2世と女性・男性文官1人ずつに俺たちを加えたメンバーでイーゼンセン大使館に出向き、ゼスティリア大使と会談がしたい旨を伝える。待つこと15分、大使館の職員が出て来て『どうぞこちらへ。会談室で大使がお待ちです』と言われたのでついていく。


 職員の案内で会談室に入ると、ゼスティリア大使らしき人物が座って待っていた。彼はエルテス2世を見るなりこう言った。


「マジで生きてた!? 冗談かと思ったが……」


「残念だったな。我はこの通り、こやつらのお陰で無傷で生きてるわ! 暗殺魔導隊も1番隊隊長はこの小さき吸血鬼が葬り、残りの3番隊隊長はこの魔法剣士率いる冒険団が葬った。しかし、我が城の兵士や文官、料理人やメイドたちの3分の2は殺されてしまった。どうしてくれるんだ! 貴様ら!」


 あまりの剣幕に一言も発することが出来ず、エルテス2世が15分恨み辛みを吐き出している間ずっとただ聞いていたゼスティリア大使。


「とは言え、貴様らイーゼンセン帝国に報復できるだけの兵力は持ち合わせていないのは確かだ。そこで、我から提案する」


「……提案? 何だそれは」


「我が国との不可侵条約を無条件で認めろ。後、殺戮に対する賠償金を支払え」


「……エルテス2世。貴様は我が帝国を侮辱した。もう話すことはない、本格的な戦争がこれから始まるだろう。覚悟しておけ」


「そうか。だが貴様らこそ覚悟しておけ。もし攻めてきたら、この吸血鬼が全力を出す。そうしたらお前たちは地獄を見ることとなるだろう」


「ハッ! ほざいていろ!」


 こうして、力を見せつける前に交渉が決裂してしまい、戦争へと突き進む事となってしまった。




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