第28話 魔導騎士団長と武具選び

「あれは、全回復フルヒール……上位回復魔法を完全無詠唱でこうも容易く発動するなんて凄いな君!」


「えっと…… お姉ちゃんは誰なの?」


「ああ、ごめん。私はクルウェイク。この国を守る魔導騎士団の団長やってるんだ。いつものように御用達のこの店に武具の新調しようと思って来たら、あの弓矢に磔にされてる男が店員に難癖つけて剣で脅していたのを見つけてな」


 まさか王国の魔導騎士団団長と出会う事になろうとは思わなかったので多少驚いた。この店に武具の新調をしに来たと言っていたが、国を守る軍隊の団長がわざわざ買いに来る程質の良い物が揃っていると言う事だろう。その分値は張りそうだが。


「そうなんだね。魔導騎士団の団長さんと出会うなんてなんか嬉しい!」


「嬉しい事言ってくれるな! それに、君の隣に居る銀髪のエルフの弓の腕は凄かったなぁ。寸分違わず男の腕や脚に全部命中させるなんて私の騎士団にも居ないぞ。それに加えて複数の弓矢を同時に操る能力持ちとは恐ろしい位だ」


「褒めて頂き光栄です。クルウェイクさん」


 そんな感じのやり取りをする事5分、クルウェイクが再び問いかけてくる。


「そう言えばお前たちはここに何をしに来たんだ? 武具の新調か?」


「いや、ルナが魔導具に興味があるって言ったんでこの店に入って見て回っていただけですが、確かに剣の新調も良いかもですね。今までルナは魔力で剣作って戦ってましたし」


「そこの娘、魔法だけじゃなく剣も使えるのか?」


「はい。特に剣流つるぎながしかまえと言う彼女自作の技まで作ってしまう程の腕は持っています」


「……万能だなその娘。冒険者じゃなければ是非魔導騎士団に入って貰いたかった。勿論ではなく、彼女自身の意思でだが」


 一瞬ヤバい連れてかれると思って身構えてしまったが、冒険者でなければと言っていたのを思い出し、緊張を解いた。


「よし、ルナと言ったか。良ければ私がその娘に合う剣を一緒に選ぼうと思うがどうだ?」


「是非お願いします!」


 こうして、魔導武具エリアにてクルウェイクと一緒に武具選びを始めた。ロングソードにショートソード、レイピアに刀等の多種多様な種類の剣が沢山陳列されているので、選ぶのに時間がかかる。


 そうしてじっくり吟味する事30分、武具エリアの1番奥に特別に飾られている2つのショートソードを見つけた。だがそれは粗悪品のように見え、わざわざ特別に飾られる程の物でもないように思えたが……


「これは、変化の剣!? これだ! 君にはこれが良いと思う」


「え? そうなの?」


 クルウェイクによれば、あの見た目が粗悪品の剣は変化の剣と言って、魔力を流す事によって世界にたった1つの、持ち主にしか使えない剣に変化するらしい。ただ、魔力の込め方や量によっては何も斬れないナマクラの剣に変化したり、敵ではなく持ち主に害を及ぼす剣に変化する可能性もあるとのこと。


「上位回復魔法を完全無詠唱で発動させる程の腕の持ち主である君ならきっと大丈夫だと思う」


 と、こんな感じでクルウェイクがこれがいい! と強く勧めて来ることもあり、購入する事に決めた。値段は2つセットで白金貨1枚ピッタリと言う高さだったが、『この剣を強く勧めたのは私だからな』と言って費用の大半を出してくれて、俺たちは普通のショートソードを買うときの値段金貨7~9枚払ったのみであった。


 購入が済んだ後早速魔力を流し込む。そうすることによって変化の剣はまばゆい光を放ちながら変化し始めた。そうして待つこと5分、ようやく光と変化が収まって来たので剣を見てみた。すると、2つの変化の剣は、刃の部分が70~80cm程で取っ手の部分が10~15cm程の綺麗な装飾が施された剣に変化していた。


「何だか凄い力を秘めていそうな剣だ。あそこの武具鑑定コーナーで君の持つ剣がどんな剣になのか確認してみようか」


 そうして新しく出来た剣を持って鑑定コーナーまで行き、店員に渡して鑑定をしてもらう。その結果、1つ目は『闇月剣あんげつけんクラバルナ』、2つ目は『蒼氷剣そうひょうけんアイヴァ』であった。


「おめでとうございます! 成功しました! この剣の効能についてはこちらの紙に記載しておきましたので、後程ご覧下さい」


 なんとか無事に強力な剣を入手できたので、その後はクルウェイクと共に防具とアクセサリーの方を見に行ったが、防御面では俺自身のスキルや現在着ている服で間に合っているので、見て回るだけになった。武具エリアを出た後は、生活用魔導具のエリアを見に行って使いそうなやつを少し購入し、店を出た。


「今日はありがとうクルウェイクさん! お陰で良い剣を買えたよ」


「それは良かった。大切に使ってな! まあ、適当に使っても『持ち主が死ぬまでいかなる魔法や技などを使用しても破壊するのは不可能』って効果のお陰で問題ないだろうけど」


 こうしてクルウェイクと別れた後、遅めの昼食を取るために良い食堂が無いかどうか探すこと40分、たまに王族の人たちも食べに来ると言う大衆食堂『バオラ』を発見したのでそこに入って昼食を取ることにした。





「おお、アテンよ。よく来たな、お主の持ってくる物は質が良いから我も助かっているぞ」


「そう言って頂けると嬉しいです。エルテス2世様」


「そうかしこまるな。いつものお主で良い」


 王都に着いた我輩の商団は、冒険団たちへのお礼を副団長のルシアナに任せていつもの品々を王に直接渡す為に王城リディエの謁見の間に来ていた。


「それにしてもアテン。今回はやけに到着が早かったが、有名冒険団でも雇ったのか? それにクレット盗賊団を全員捕まえると言うおまけ付きで」


「いや、我輩がギルドに依頼を出してエーシェ冒険団他複数の強力な者たちを今回の為に用意しただけだ。ちなみに、盗賊団を捕まえたのはエーシェ冒険団ではないぞ」


「そうなのか。では一体誰が?」


「シャルナと言う、ルスマス冒険団に所属している吸血鬼の少女だ。それに、カントラ渓谷で襲って来た飛竜の亜種をもまるでその辺の虫を殺すような感じで討ち取っていたな」


「そうか。是非会ってみたいものだ」


「会いたいのなら早く探した方がいいぞエルテス2世。何日ここに居るか分からんからな」


「ああ。お主の言う通りにする」


 そして、用事が済んだ我輩たちは次の商売の為に足早にこの場所から立ち去った。


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