第26話 クレット盗賊団

 スキルで探知した方向に飛行している途中、3人を襲っている盗賊を風の上級魔法『風波刃』を使用して撃破しつつ、盗賊団の団長の元へ着陸して改めて問いかけた。すると……


「その通りだが。吸血鬼、何の用だ?」


「用事? えっとね、今襲っている人間たちの荷物を返して解放して。それと、明日の朝アテン商団がこの峠を通るのに貴方たちが邪魔だから消えてくれって言うのを言いに来たの」


 俺がそう言うと、クレット盗賊団と名乗る奴らが『断る。せっかく獲物を狩れそうなのにみすみすこんなチャンスを逃がしてなるものか』と言ってきた。予想通りの返答だったが、そうなればやることは簡単。盗賊団を壊滅させれば良いだけの話である。


「ああそう。じゃあ、今から貴方たちを壊滅させるね!」


 まずは3人を襲っていた盗賊の残りを猛雪砲ブリザードカノンでまとめて排除する。剣で斬りつけて来た盗賊には氷剣アイシクルソードでその剣を受け止め、剣流つるぎながしかまえでバランスを崩した後、回し蹴りを叩き込む。


「ちくしょう! 何だコイツ、魔法が効かねぇ!」


「光魔法使える奴は居ないか!? ミスリル装備持ってくれば良かったぜ」


「魔導師は全員先にやられたぞ! と言うかそもそも中級光魔法当ててもダメージが無かったがな!」


「化け物じゃねーか! だとしたらアイツはそこらの下級や中級吸血鬼じゃねぇぞ! 上級か最上級、まさかとは思うが『始祖』かその一族だったりするかもな」


「おいおい、冗談きついぜ」


 俺の登場により盗賊共は大混乱を起こし、逃げる奴や気絶する奴、破れかぶれで突撃してくる奴等が大量に出てきた。戦意がない奴らは取り敢えず放置し、突撃してくる馬鹿共を氷矢アイスアローの乱射で倒した後、逃げた奴を追いかけて蹴りを入れて気絶、魔力の鎖を作って縛り上げて捕縛する。


 そうして俺は戦うこと15分、盗賊団の団員をあらかた捕縛や殺傷等によって戦闘不能にさせた。後は盗賊団団長とその周りに居る奴らだけとなった。


「何てことだ。たった1人の吸血鬼ごときにここまでボロボロにされるとは…… かくなる上は俺の身体が壊れようとも行くしかない!!」


 そう盗賊団団長が気合いを入れると、身体強化の魔法を重ね掛けをしてから俺に超高速でナイフを首元へ振りかぶる。


「凄い速いし、重い攻撃だね。でも、私はこれくらいなら止められるよ!」


 ナイフが首を狩ってしまう寸前、魔力の衣を身体中に纏わせる。その瞬間に彼のナイフが俺の首に当たるが、金属同士がかち合った時のような音を立てて弾かれた為、狩られることはなかった。


 その後も何度も繰り返し首や胸を狙われるものの、全て弾くか回避した。そうして10分程経ってくると彼の動きが鈍くなってきていた。疲労に加え、身体強化の魔法による身体への負担に耐えきれなくなり始めているのだろう。


「これで終わらせるね。盗賊団の団長さん」


「何を…… ぐぁ!」


 襲いかかるナイフの弾幕を掻い潜り、奴のふところに潜り込む。そして死なない程度に蹴りを入れて吹き飛ばし、気絶させた。


 こうして俺は、盗賊団団長を捕縛してそばにあった洞窟の中に放り込む。他の盗賊たちも魔法の鎖で縛り上げて同じく洞窟に放り込み、結界を張って盗賊団を実質壊滅状態にした。


 その後、襲われていた3人の人たちの奪われた荷物を盗賊たちから回収して彼らに渡す。


「はい。これ、貴方たちの荷物でしょ?」


「あ、どうもありがとう。でも何で私たちを助けてくれたの?」


「アテン商団って知ってる? 今その護衛をやってるんだけど、下のキャンプエリアに盗賊が現れてね。で、そいつを捕まえて尋問したらこの辺を拠点にしている盗賊団の団員って分かったから、周囲にまだ潜んでいるかもしれないから捜索したらこの場所に沢山の盗賊とそれに襲われている貴方たちを見つけたから助けたって訳」


「成る程。つまり私たちは運が良かったと言うわけね」


「まあ、そうだね。下に盗賊が来なければそのまま仲間たちと一緒に寝てただろうし。あ、そうだ。ここは危険だから一旦私の仲間たちが居る場所に来ない?」


 そう提案してみた所、ちょうど目的地方向だった事もあって賛成したので、3人を俺たちが建てたマジックテントまで連れていって今夜はそこで過ごしてもらう事になった。


「じゃあ今から仲間のテントに貴方たちを連れて飛んで行くから、運び易いように魔法の箱マジックボックスに入ってね!」


「「「分かりました」」」


 こうして3人を魔法の箱の中に入れ、それを持って飛んでルスマスたちが待つマジックテントへ向かった。


「ルスマス、今戻ったよ~」


「おお、ずいぶん早かったな。で、その3人はどうしたんだ?」


「実はね、盗賊団に襲われていたのを助けたの。今夜はここに泊まらせるのは出来る?」


「成る程、そう言うことか。スペース的には問題ないから出来るぞ。リニルシアとユーラはこの3人が居ても問題ないか?」


「僕は大丈夫」


「私も問題ないです。もう夜ですし、外は危険ですから」


「よし。決まりだな! 今夜は俺たちのテントで泊まっていっても良いぞ! 明日に備えてゆっくり休んでけ」


「「「ありがとうございます!」」」


 こうしてクレット盗賊団を洞窟に縛り上げて放り込み、アテン商団の邪魔になる物を排除し終えた俺は、安心して眠りについた。


 翌日、朝食を昨日助けた3人と共に食べる。食べ終えた後も他愛もない会話をしていると、出発時間が来たのでここで別れて出発した。


 途中、洞窟に押し込んでおいたクレット盗賊団を王都ルテスの警備隊に突き出す為、エーシェ冒険団や他の冒険団、アテン商団の人たちと協力して運ぶ。


 盗賊団が居なくなったお陰で平和になったエステイン峠を越えること7時間、ようやく今回の目的地である王都ルテスへと到着した。俺たちが来る前に何かあったらしく、入都手続きに手間取ったものの特に問題なく全員無事に通過出来た。








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