第25話 王都へ続く エステイン峠道

「それではこれが、今回の依頼成功報酬の金貨10枚となります」


「何だか量が多くないですか? こういう類いの依頼相場からして金貨1~2枚位かと思ってましたけど……」


 スファーに書いて貰った依頼達成のサインが書かれた書類をギルドに提出して報酬を受け取ったルスマス。その量に驚いて何でこんなに報酬が多いのか疑問に思ったらしく、受付の人に質問していた。


「それはですね……」


 ギルド受付の人によると、俺が生徒たちに教えた洗浄魔法と消臭魔法を学園内の清掃時間に先生たちが試しに使ってみたと言う。魔力消費が結構あったものの、いつもの何倍もの早さで清掃が終わったお陰で次の日の授業の準備がより早くから行え、業務時間が短縮できたお礼との事らしい。


「成る程、ルナのあの魔法のお陰と言う訳か。まあ、確かにあの魔法は風呂に入れない今回の旅のような状況や、やたら広い屋敷や学園等の建物掃除には重宝しそうだしな」


 そうして報酬の金貨10枚を受け取った俺たちはギルドを後にして宿へ戻り、食堂で夕食を他の冒険団も含めて皆で食べる。その時またネルが酔って他人の酒を飲み始める、誰かの恥ずかしい秘密を喋り始めると言った行為を止める為、エーシェに鉄拳制裁を喰らって気絶する等大盛り上がりとなって夕食会は終了した。


 その後は宿の部屋に戻って洗浄魔法と消臭魔法を自分を含む全員に掛けて、ユーラと一緒のベッドに横になって眠りについた。そして翌日……


「ルナ、起きて。もうすぐ出発の時間だよ!」


「……んぇ?」


 そう言われてベッドから起きて窓の外を見ると、太陽がほぼ真上まで上っていた。つまり、俺は出発時間の昼近くまで寝ていたことになる。


「……ごめん。急いで用意するね」


 なので急いで着替え、後片付けを済ませてギルド近くの集合場所の門まで行く。そうして全ての冒険団の準備が整ったところで出発しようとした時、ギルド受付の人が近づいて来て、俺宛の手紙を渡してきたのでそれを受け取ってから俺たちは動き出した。


「ふぅ…… 間に合って良かったぁ~」


「ルナ、珍しいな。いつも朝食の頃には起きてくんのに」


「ええ。何故かいくら私が起こしても全然起きなかったです。ルナ、どこか調子でも悪いの?」


「いや、別に調子が悪いって訳でもないんだけどね」


「そうか。なら良いんだが…… あ、ルナ。そう言えば出発前、手紙を貰ってたよな。どんな手紙なんだ?」


 そう言われたので、貰った手紙を見てみると……



『私のお友達 シャルナへ』

 昨日は本当にありがとう。お昼の時にも、散歩の時も話し相手になってくれたり、あの5人から恐魂縛キャードウルバインドって魔法で守って貰えて嬉しかった。貴女が帰った後、またあの5人に囲まれてリーダーに殴られそうになったんだけど、その瞬間に気絶しておまけに失禁するって醜態を晒したの。それもクラスの皆の前で。もうその時のあいつらの慌てようったら本当に愉快で仕方なかった! お陰でスッキリしたわ、ありがとう!

                        ルアノより


 そう書いてあった。手紙の文を全て見終えた後、ルスマスにも見せた。


「成る程、そんな事があったのか。道理で昨日の休み時間ルナを全く見掛けなかったわけか」


「恐魂縛って何なの? ルナ。スキルで創造した魔法?」


「うん。どういう魔法なのかと言うとね……」


 ユーラに聞かれたので、どういう効果を発揮する魔法なのかを説明した。


「成る程。魔法の名前からして凶悪そうな魔法だとは思ったけど、魂に恐怖を埋め込むとはね…… 掛けた人は大丈夫なの?」


「うん、大丈夫だよ。別に殺す為の魔法じゃないし、効力と条件も調整しておいたからね」


「本当、ルナってなかなか凄い魔法を思い付くよな。いくらスキルがあるとはいえ、こうホイホイ思い付くものじゃないぞ」


 そんな感じで会話をしながら6時間後、エステイン峠の入り口にあるキャンプスペースに到着した。もうすでに夕方である為、本日中の峠越えは断念してここでテントを張って全員が泊まることなった。


「この峠を越えればやっと王都だね。ルスマス」


「そうだなリニルシア。長い旅も後少しで終わりだけど、気を抜かずに明日に向けて休息をしっかりとろうな」


「そうだね、ルスマス」


 そうして俺たちはまず先にマジックテントを張り、それが終わった後は持ってきた食料をルスマスの魔法のバッグから出して食べ、食べ終えた後は特にやることもないのでテントに入って寝ようとしたその時、外で何やら不審な物音が聞こえた。テントを出て見てみると、不審な男が外に置き忘れてたバッグの中身を漁っていたのが見えた。


「おい! 何をしている!」


「ちっ! 見つかったか」


 ルスマスに見つかった男は逃げようとしたが……


「『縛矢バインドアロー』」


 ユーラが男の脚に麻痺効果を持つ矢を放ち、寸分たがわず命中した。それにより満足に動けなくなった男を捕らえ、尋問をした。その結果、エステイン峠周辺を縄張りとする盗賊団の団員だと言うことが分かった。


 なんとなくまだその辺に潜んでいそうな気がした為、『完全探索パーフェクトサーチ』スキルを使った。すると、900m先に盗賊団らしき集団が峠を渡っている3人に襲いかかっているのが分かった。このまま放っておくと3人が危ないし、こちらにも害が及ぶかもしれない。


「ねえルスマス。今からちょっと盗賊団を滅ぼしに行ってくるね!」


「盗賊団!? やっぱりか。ああ、行ってこい!」


 そうして俺は盗賊団を滅ぼす為、そして襲われている人たちを助ける為に現場に飛行して向かった。




「ヒャッハァー!! 馬鹿だぜコイツら。こんな夜中にエステイン峠に居るんだからなぁ!」


「確かにね。道にでも迷ったのかな? お頭さん」


「違ぇだろ。複雑な迷路みたいになってんならまだしも」


 エステイン峠周辺を縄張りとする俺たちクレット盗賊団は、久しぶりにこの時間に来た獲物を狩っていた。ここ最近は騎士団の警戒が厳しく、夜に活動するしか無くなっていた。それが久しぶりに夜中に峠に来る馬鹿冒険者が来たのだ。皆飢えた狼の如く襲い掛かっていた。


 このまま行けば全員を殺し、荷物を全て奪うことが出来る。そう思ったその時、前に居た仲間が突然飛んできた風の刃に切り裂かれた。


「何だ!? 何が起こったんだ!?」


 辺りを見回して見ると、前の方から何かが飛んできて俺の前に着地した。


「貴方が盗賊団のリーダー?」


 そう問いかけて来たのは、黒い羽と薄い金髪、蒼い瞳を持つ吸血鬼の少女だった。

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