第23話 アステン魔導学園

「申し遅れた。俺はアステン魔導学園のエリートクラスの担任をしているスファーだ」


「俺はルスマス冒険団で団長をしているルスマスと言います。こちらから順に団員のリニルシア、ユーラ、ルナです」


「「「よろしくお願いします!」」」


「ああ、よろしく。所でそちらのルナと言う娘、かなり幼いように見えるが実力は如何程なんだ?」


 成る程。今は放出する魔力を抑えているから、スファーには俺の容姿も相まってさほど実力が無いように見えるわけか。


「心配しなくても大丈夫です。まだランクはEですが、実力に関してはSランク程度、夜になればそれこそ敵は居なくなるレベルで強いので。なんせ彼女は11歳ですが、吸血鬼ですから」


「吸血鬼か。日の下で行動可能と言うことは日光防御スキル持ち、つまりかなり上位の吸血鬼か、始祖またはその一族の可能性があるな。だとしたら実力は言わずもがなと言う訳か……」


 ルスマスが俺を吸血鬼だと告げた瞬間、彼の俺を見る目が変わった。


「姿だけ見て実力が無いものだと思い込んでしまい、先ほどの発言大変失礼した」


「いいよ! で、スファーさん。依頼の説明をお願い」


「あ、そうだった。話が脱線していたな。それで依頼の内容とそれに至る経緯なのだが……」


 スファーよると、彼の主に担当しているエリートクラスと言う高度な魔法を学ぶ学園内でも上位の成績や実力を持つ人やそれ以外の種族たちが集っているこのクラスでは、現職の魔法使いを呼んで対戦する事によりレベルアップを図る授業をやる予定だった。


 しかし、突然呼んでいた魔法使いの人が何か事情があったのか、来れなくなってしまったと言う。このままでは今日の授業を完全に中止せざるを得なくなり、それを恐れた彼は何を思ったかギルドに依頼を出してみようと言う考えにたどり着いた。


 だが、よく考えればそんな都合良く今日依頼を受けてくれる人なんて居るわけがない。仕方ないから今日の授業は中止しようと思って諦めようとした時に俺たちが登場と言う訳だったのだ。


「成る程、分かりました。では今すぐ向かいましょう。案内をよろしくお願いします」


 こうして俺たちは、将来魔法使いのエリートとなる人たちを育てる学園の生徒と対戦をする為にアステン魔導学園にスファーの案内で向かう。魔法を学ぶ学園とは一体どんなところなのか、どんな人たちが居るのか、どんな魔法を学ぶのか。そんな事を考えながら歩くこと15分程、目的地に到着した。


 正面の門を通り抜けて見た感じ重厚な扉を開けると、中はまるで西洋の有名な宮殿の中のように広く、装飾も美しい輝きを放つ宝石のようなもので彩られていた。更にスファーに付いていくこと5分、エリートクラス1組と書かれたプレートが貼られている扉の前に到着する。


「ルスマス冒険団の皆さん、ここが俺の担当するクラスです。人数は127人居ますが、現職の魔法使いとの戦闘訓練が主目的ですので仮に挨拶等に失敗しても何らかのペナルティー等は特にありません。準備は良いですか?」


「「もちろんです!」」


「俺も大丈夫です」


「僕も大丈夫です」


 扉を開けて入っていくスファーの後に続き、俺たちも中に入る。生徒の中に人間はもちろん、獣人やエルフ、少ないがドワーフや竜人等多種多様の種族の生徒が居た。全員から感じる魔力が高いことから、かなりの努力家か生まれながら魔法に長けた天才だと言うことが分かる。


「皆、2時間も待たせてしまって申し訳ない。来るはずだった魔法使いの人が来れなくなり、ギルドに依頼を出して運良くそれを受けてくれた現役の冒険者をやってる魔法使い2人と魔法剣士に弓使いの人を連れてきた。せっかく剣士や弓使いの人に来てもらったから、授業内容を魔法込みの実戦形式に変更するぞ。だがその前にこの人たちの自己紹介をやるから、しっかり聞くように」


 スファーに促され、ルスマスから順にリニルシア、ユーラ、そして最後に俺と言う順番で自己紹介をすることになった。


「俺はルスマス冒険団団長のルスマスだ。今日はよろしく頼む」


「僕はルスマス冒険団のリニルシアです。よろしくお願いします」


「私はユーラ。同じくルスマス冒険団所属です。よろしくお願いいたします」


「私はシャルナ。他の3人と同じ冒険団所属なの、よろしくね!」


「「「よろしくお願いします!」」」


 一通り挨拶が済んだ後、スファーの呼び掛けで戦闘を行う為に教室から対魔法装甲が施された備え付けの闘技場に向かう。


「では、これより戦闘訓練を始める。相手は現役の冒険団、場数を踏んでいるから油断しているとあっという間にやられるぞ。行くなら手を抜く事なく全力で行け!」


「「「もちろん、頑張ります!」」」


 こうして、学園の生徒たちとの戦闘訓練が始まった。最初に誰が来るか見ていると、小柄で杖を持った男の子が前に出て来て、リニルシアに戦闘訓練を申し出る。


「あの…… ぼくとのたたかいおねがいしてもいいですか?」


「僕とやるの? もちろん良いよ。スファー先生、彼がそう言ってますけど大丈夫ですか?」


「ああ、問題ない…… ではこれより、ヴェルス対リニルシアの戦闘訓練を開始する!」


 スファーの合図と共にお互いいつでも戦えるように構える。少しの沈黙が場を支配した後、最初に動き出したのは杖を構えた男の子のヴェルスだった。


「『氷矢アイスアロー』、『炎矢フレイムアロー』!」


 彼の後方の魔方陣から氷の矢と炎の矢が空間を埋め尽くす弾幕となって襲いかかる。いきなり中級魔法の嵐を浴びる事となったリニルシアは、一瞬驚くもすぐさま体勢を立て直し、同様の中級魔法を放って相殺する。


「スファー先生、あの子何歳なんですか?」


「ヴェルスか? 8歳だ。本来なら10歳以下の者は入れないのだが、この魔法の才能を見込まれて特別に許可されたんだ」


「7歳!? その年で中級魔法をホイホイ扱うなんて凄いなぁ…… おっと危ない」


 先生に対戦相手の事を聞きながら攻撃を避けるリニルシア。いくらなんでも相手が7歳の子供だからと言って油断しすぎじゃないかと思いながら見ていると、ヴェルスが更なる攻撃を仕掛けようとしていた。


「ほのおさん、てきをもやして……『炎大砲フレイムキャノン』」


 彼がそう唱えると、手のひらの魔方陣に炎が収束して塊となる。それをリニルシアに向けて発射する。まさか上級魔法が飛んで来るとは思っていなかったのか、まともに喰らって爆炎に吹き飛ばされていた。


「まさか上級魔法が飛んで来るなんて…… 油断しすぎたなぁ」


 流石に子供の放った魔法とはいえ、上級魔法を無防備に喰らったとだけあって、そこそこのダメージを受けていた。


「ヴェルス君だっけ? 凄いよ、君は」


「ありがとうございます。でも、まりょくがもうないのでぼくのまけです」


 どうやら今の魔法で魔力を使い果たしたらしく、地面に座り込んで休んでいた。


「そこまで! ヴェルス、良くやった! 現役の魔導師にここまでのダメージを与えるなんてお前はやっぱり凄い!」


「スファー先生、ほめてくれてありがとうございます」


 そうして、リニルシアとヴェルスの戦闘訓練が終わったちょうどそのタイミングでチャイムが鳴った。


「チャイムが鳴ったから一旦終わりだ。休み時間明けに続きをやるぞ!」


 どうやら昼食を取る為の休み時間を知らせるチャイムのようだ。なので一旦切り上げて俺たちも皆と一緒に昼食を取ることにした。




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