第15話 解呪の秘薬

 カースジェヌラ5体に囲まれているフーリャスとシェーンの2人を発見した俺は、魔法創造マジッククリエイトスキルを使用して風属性魔法『葬る風ウィンドキリング』を創造、発動させる。無関係の人や動物等を巻き込む可能性を極限まで減らし、対象の敵を鋭い風の刃で葬る事に特化させたこの魔法は、正確にシェーンを狙っていたカースジェヌラをメッタ斬りにした。その後、他4体も同様の魔法で葬った。


「えっと…… フーリャスさん、シェーンさん。大丈夫? 貴方たちの子供に依頼を受けて助けに来たよ!」


「息子からの依頼でか…… ありがとう。ずいぶん心配をかけたみたいだな。帰ったらなんかしてやらないと…… ぐっ!」


 全てのカースジェヌラを葬った時、シェーンが突然片膝を地面に着かせてガタガタ震え始めた。


(俺がカースジェヌラを葬った時に拡散した黒い霧、まさかあれは奴らの体内に秘められていた呪いだと言うのか!)


 しくじった。呪いを振り撒く獅子と言うからには、死んだ瞬間に呪いが拡散したとしてもおかしくはない。自分は効かないから良いが、他の人に耐性があるとは限らない。次はそう言うことも考えて魔物の討伐をしよう。


「ひとまず治療を……『治癒ヒーリング・オブ・ウィンド』!」


 状態異常やある程度の傷なら治してしまうそよ風を吹かせる魔法を使う。シェーンを蝕んでいた呪いは消え去り、身体中に負っていた切り傷や刺し傷等もほぼ治った。


「まさか呪いまで綺麗さっぱり無くなるとはな…… 凄いなお前の回復魔法。状態異常も一緒に治すとは、上級回復魔法以上の力だ」


「誉めて貰えて嬉しい! でも、その分魔力の消費も多いからあんまり多様出来ないけどね。あ、フーリャスさんの方は怪我とか呪いとか大丈夫?」


「あ、はい! 僕は呪い耐性があるので問題ないです。怪我の方もシェーンのお陰でほぼ無傷でした」


 そんな感じで2人の無事を確かめていると、後ろからルスマスたちが走って追い付いてきた。


「ルナ、2人は!?」


「大丈夫。無事だよ! カースジェヌラ5体に襲われてたから彼らを守るために殺しておいた」


「そうか、良かった! 」


 こうして無事に2人を見つけた俺たちは、殺したカースジェヌラから出た魔石を採取してこの場を離れ、階段を登って迷宮脱出を始めた。道中、火を纏った鳥やギガントオーガ、スケルトンメイジ等の高ランクの魔物に襲撃を受けたり、体力が完全には戻っていないシェーンとフーリャスに合わせて行きは無視していた安全地帯セーフティーゾーンで休みながら進んでいた。


 そして、長い時間を掛けてようやく脱出をした時にはもう夜になっていた。迷宮に入った時は確か夜になりかけだったから、約1日経っていることになる。真面目に宝探しをして、本格的に迷宮の主まで攻略しようとすれば恐らく今回の2倍~3倍の時間は掛かるだろう。


「やっと出れたぁーーーーー!」


「確か3日ぶりだったっけ? 本当に死ぬかと思ったよねシェーン」


「ああ。魔召エリアに3回も下層でまり、地図は燃やされ、止めとばかりにカースジェヌラに囲まれるとかな。こんなに災難が立て続けに起きてよく死ななかったと思う」


 俺もそう思う。俺たちも魔召エリアに嵌まったが、まだ地下1階という魔物が比較的弱めの所だった。これが地下15階以降で3回も嵌まろうものなら地獄だったということは簡単に想像出来た。


(俺たちは下層では1回も嵌まらなかった。彼らが行ったときは3回も嵌まった。と言う事はこの迷宮地形が定期的に変わるのか。不思議のダンジョンみたいな感じだな)

 

 そんな事を思っていると、ユーラが『今夜はここで野宿しましょう。フーリャスさんとシェーンさんも体力が戻っていないようですし』と提案してきた。それを2人を含む俺たちも賛成し、準備に取りかかる。1時間も経つと、簡易的なキャンプ場のような場所が完成した。


「よし、完成したぞ。 でも、寝ている間の警備はどうすんだ?」


「それなら任せて! 夜は私の本領だし」


「済まん。任せたぞ」


 こうしてリニルシアが簡易的な魔法結界を張ってから、皆は眠りについた。その間、俺は周囲を見回して危険な魔物が居ればひたすら殺し回る事を朝になるまで繰り返した。


「おはよう。ルナ、ご苦労様」


「うん。皆はよく寝れた?」


「お陰でバッチリ寝れたよ。ルナは眠くない?」


「少し眠いかな」


「じゃあ、ルトレーバの町に戻るまで私が抱いてってあげるからゆっくり寝て休んで」


 そうユーラが言ってきたので、言葉に甘えて抱かれながら寝ることにした。そして寝てから3時間程経つと、ルトレーバの町に着いたらしくユーラに起こされた。


「ルナ、着いたよ。起きて」


「ん…… 着いたの」


「おはようルナ。フーリャスにお礼がしたいから来てくれって誘われたから、これから家に行くことになった。大丈夫か?」


「うん。大丈夫」


 何でも寝ている間にそういう話になったらしい。解呪の秘薬の調合をフーリャスの妻、つまり少女の母親にやってもらうついでに俺たちとシェーンの家族を誘って、無事に戻ってこれた事を祝って食事会を開くとの事。


「秘薬の調合って難しそうだけど、もしかしてフーリャスの奥さんってそういう系の職業に就いてるの?」


「ああ。フリーで活躍中の有名な『ラナ』って言う調合士でな。秘薬系の調合なんて彼女にかかれば片手間で出来る程の腕の持ち主なんだよ」


(成る程。それほど腕の立つラナと言う調合士が知り合いの妻と言うことなら、頼みたくもなるだろうな)


 そんな会話をしながら歩いていると、フーリャスの家に着いた。扉を開けて中に入ると、妻のラナと少女が編み物をしていた。少し経ってフーリャスに気付くと、無事に戻ってきたことに泣いて喜んでいた。


 その後、先ほどの計画を彼がラナに話したところ『解呪の秘薬調合? あったりまえでしょ!! 勿論今すぐやるわ! シェーンの家族とそこの冒険者たちとの食事会をここで? それも良いわよ!』と快い返事を貰っていた。


「じゃあ僕今からシェーンの家に行って家族を誘ってくるね!」


「よーし! 早速調合やるぞ~!」


 そうしてフーリャスはシェーンの家族を呼びに行き、ラナは秘薬を作りに部屋の中に入っていった。30分後、シェーンの家族が全員ここにやって来た。少年の母親に抱かれた彼女が助かると聞いたのか、最高の笑顔になっていた。更に3時間経つと調合が終わったらしく、ラナが透明な液体の入った手のひらサイズのビンを持って部屋から出てきた。


「出来たわよ~! これが、解呪の秘薬! さあ、カルネさん。これを早く貴女の抱いてるお子さんに飲ませてあげて!」


 そう言ってラナは、カルネと言う少年の母親に解呪の秘薬を渡す。それを受け取ったカルネは早速抱いてる子供に飲ませた。すると、子供の口からどす黒い何かが出て来て霧散した次の瞬間、目を覚ました。


「……お母さん? お兄ちゃん」


「ミーシャ!? 良かったぁぁ!!」


 こうして無事に秘薬によって呪いが解けたミーシャ。この家の中が喜びに包まれていると、窓の外からこちらの様子を伺う不審な人物を俺は見つけた。その人物と目が合うと、逃げるように立ち去って行った。








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